ウンゲツィーファの本橋龍が書き、玉田企画の玉田真也が演出する『帰りのチャイムはまだならない』が、10月23日から25日まで渋谷・ユーロライブで上演される。物語の始まりは、夕方の保育園のお迎えの時間。帰ろうとしない子どもたちのそばで、顔を合わせてしまった親同士の、気まずくて、どこか可笑しいやりとりが描かれる。そこに先生役の俳優として、普段はゆうめいで作・演出・美術を手がける池田亮が加わる。互いを「捉えどころがない」「謎」と評し合う本橋と玉田、そして2人とそれぞれ作品を作ってきた池田に、組むことで見えてきたものを聞いた。
■本橋龍「玉田さんに嫌われてるんじゃないかと思っていた」
――池田さんは、玉田さんとは合同公演『玉田企画とゆうめいのおたのしみセット』、本橋さんとは『Uber Boyz』や『養生』で、作品を一緒に作ってきました。そのお2人が組むと聞いて、どう思われましたか。
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池田:以前から、お互いに気になっている感じは漂っていたんですよ。それがここ1、2年くらいですかね、玉田さんがウェブ記事で最近面白い劇団としてウンゲツィーファに言及したり、公演にコメントを寄せたりして、急接近した印象を受けていました。
本橋:ちゃんと話をしたのはホント最近なんです。玉田企画はずっと観ていたし、近い場所にいたはずなんですけど、長い間すれ違っていて。「玉田さんに嫌われてるんじゃないか?」と勝手に思ってしまっていたぐらいで。
玉田:いやいや(笑)。ウンゲツィーファはコロナ前から観ていて、面白いなと思っていたんです。ただ、捉えどころがない面白さというか。自分とはまったく違うやり方をしていることだけは分かるんですけど。
本橋:そう、だから玉田さんがウンゲツィーファの名前を出してくれた記事を見て、すごくうれしくて。そのあと、喫茶店で初めてお話ししたんですよね。
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玉田:ちょっとお茶でもしましょう、と。最初は世間話みたいな感じだったんですけど、けっこう盛り上がって、気づいたら、「一緒に公演をやりましょう」という話になっていました(笑)。
本橋:僕からしたら、願ってもない話ですよ。
――本橋さんが脚本を書いて、玉田さんが演出する。この役割はどう決まったんですか。
玉田:自然とそうなりましたよね。
本橋:僕は脚本と演出を両方やってきましたけど、実は演出がそれほど得意ではない気もしていて。誰かに演出してもらえたらいいかもな、とずっと思っていたんです。
玉田:それで、本橋さんが「こういうのはどうですかね」って、2つ案を出してくれました。1つは、会議室みたいなところで展開する会話劇。もう1つが、今回の、保育園のお迎えの場面を演劇にするアイデアでした。会議室のほうは、僕が演出することがわりとイメージできる。でも、保育園のほうは、自分では選ばない題材だし、どうなるかが見えない。どうせやるなら、見えないもののほうが面白そうだなと。
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本橋:前から温めていたアイデアだったんです。ただ僕自身、子どもを保育園に預けている当事者なので、近すぎるというか、外側の目線がなさすぎて、自分で演出することに踏み切れなかった。なので玉田さんとなら、ぜひやってみたいと思ったんです。
――池田さんが俳優として加わることになった経緯は?
池田:本橋さんから急に電話がかかってきて、何だろうと思ったら、出演のオファーでした(笑)。
本橋:はい、僕が提案しました。シンプルに、池田くんが俳優をやるのが好きなんですよ。
玉田:なるほど、その手があったかと。僕は、池田くんが俳優をやっているのを観たことがないんです。でも、絶対に面白いだろうなと。
本橋:以前、『Uber Boyz』という、舞台上で自転車に乗る演劇を一緒につくった時、それぞれ自分の自転車を持ってきたんですけど、池田くんは稽古の最初から、自転車を床に投げつけたりしていたんです(笑)。これ、本番まで持つかなと思ったら、案の定、本番前に壊れちゃって。
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池田:自転車を漕ぐ場面で、担いで走りました(笑)。
――そこは、劇作家が俳優として舞台に立つ独特さもありそうですね。
池田:玉田企画では、玉田さんが毎回、出演もするじゃないですか。絶対に目がいくし、その場の空気をつくる力がある。僕の『養生』に本橋さんが出てくれた時も、いわゆる俳優とはまた違うたたずまいがありました。
本橋:なんだろう、守るものがないというか(笑)。俳優としての次の仕事につなげようとか、いっさい考えなくていいですからね。
池田:だから、僕も自転車を壊してしまうのかもしれない(笑)。
■舞台は保育園 育児中だからこそ「中途半端なことはできない」
――今回は保育園が舞台ですが、本橋さんと池田さんは育児中で、身近なシチュエーションなのかなと。
池田:ええ、保育園に毎日お世話になっています。なので、脚本を読んで、すぐにイメージできたんですけど、だからこそ中途半端なことはできないなとも思いました。
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玉田:僕にはその経験がないので、保育園の先生と親とか、親同士とか、どんな感じで喋るのか、そこに子どもが入ってきてどんな空気になるのか、全然知らないんです。でも、分からないからこそ、無茶な想像で飛躍できるかもしれない。
本橋:例えば、僕が書いた子どもたちのやりとりについて、玉田さんが「猫みたいだね」と感想をくれたのが面白くて。そういう視点でどんどん広げてくれたらうれしいですね。
――先生の事情、親の事情、そんなことを気にしない子どもたちの行動から生まれる「気まずさ」みたいなものは、玉田企画にも通じるものがありそうです。
玉田:脚本を読みながら、こういう空気が一瞬生まれそうだな、とか勝手に想像して笑っていました。とくに先生役は、これを池田くんが演じたらどうなるんだろうとか。
池田:保育園にお迎えに行くと、先生がその日にあったことをすごく丁寧に伝えてくれるんですよ。でも、こちらは子どもが3人もいるので、それを聞きながらも、順番に靴を履かせるのに必死なんですね。俯瞰したら、ちょっと可笑しい状況ですけど、親の立場だと余裕がない。今回、先生役ができるのは、自分としても面白いことだなと。
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――また、親同士のよそよそしさもありますよね。
本橋:そこは日々、感じています(笑)。うちの子は保育園で仲良し3人組なんですけど、ほかの2人の親同士は仲良くて、僕だけそこに入れていない。それでも、子どもたちが遊んでいる間は、一緒にいるしかない。
玉田:それって、子どもは気づいているんですかね。「うちのお父さんだけ、輪に入れていないな」とか。
本橋:察知していると思います。子どもって、細かいところまで見ているから。
玉田:自分が子どもの頃を思い出しても、父親の、父親ではない顔を見てしまった時って、いたたまれない気持ちになりますよね。
本橋:改めて思うと、少ししんどい気持ちになってきました……(笑)。
■演劇での“笑い”「お客さんが笑わなくてもスベったことにはならない」
――脚本を読むと、同じ俳優が大人と子どもの両方を演じます。ウンゲツィーファではおなじみの手法ですが、玉田さんはどう捉えていますか。
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玉田:ウンゲツィーファを観ていて感心するのが、転換の巧みさなんです。演劇でしかありえない手法で、場面や人が切り替わっていく。ただ、僕がその巧みさを模倣するべきかというと、そうではないのかもしれない。かえって転換がうまくいかないほうが、よかったりしないかなと。軋轢(あつれき)や無理が生じている瞬間を見せるのも、演劇的な面白さとしてあるはずなので。
本橋:それ、見てみたいです。以前、玉田さんの作品で、髭のあるような大人の俳優が中学生役を演じていて、衝撃的だったんです。
玉田:でも、あの時は途中でそこにツッコミを入れて、笑いどころにしてしまったんですよね。演劇的な面白さというよりは、ある意味、「笑い」に逃げてしまった(笑)。
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――笑いといえば、会場のユーロライブは「演劇」と「お笑い」の融合を推進してきた劇場でもあります。演劇とお笑いにおける「笑い」の扱いについて、どう思いますか。
玉田:お笑いは「笑い」を生むためのパッケージがパキッとある気がします。確実に笑いを取る必要がありますから。演劇は、お客さんが笑わなくてもスベったことにはならない。
池田:今回の作品で言えば、笑いは、傷の複雑さに触れる方法でもあると思うんです。子どもの怪我は目に見えるし、すぐ治る。でも、大人のパートになると、傷の印はないのに、会話の節々に、どこか見えない傷みたいなものを感じる。大人になるってつらいな、と思ってしまった。そこが、ほどよく笑えたらいいなと思います。
玉田:まさにその傷の状態について、ボケとツッコミにしなくても、解像度を上げていけば、お客さんが笑ってしまう境地まで行く気がするんです。そんな回りくどいやり方は、演劇でないとなかなかできないですよね。
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――どんな舞台になるのか、楽しみになってきました。
本橋:僕自身も、そうです。玉田さんは、僕がしないであろう選択をする人なので。そもそも、出会ったばかりでこんなことを言うのもアレですが、ずっと安定しない足場で作品を作り続けているような印象もあります。
玉田:自分の知っていることや体感していることだけで作ると、どこか飽きていくんですよね。作り手としても続かないなと思って。ただ、最近、ウンゲツィーファは劇団になったじゃないですか。チームでものづくりをしている感じが、外から見ていてもいいなと思うんですよ。
池田:わかります。ウンゲツィーファって、本橋さんも含めて、全員で作ってる感じがありますよね。
玉田:だから今回は、ウンゲツィーファの空気を作っている俳優たちとやることで、「こんな面白い刺激があるんだ」という発見を僕がどれだけできるか。また、僕の作り方が通用しなくなった時に、どんな新しい反応が起きるか。根拠はないけど、そういう期待感を持っています。
本橋:現時点でも、僕にとって刺激的なことばかりです。この勢いで、観客のみなさんにも新鮮なものをお見せできればいいなと思います。
(取材・文:九龍ジョー)
舞台『帰りのチャイムはまだならない』は、10月23日~25日に東京・ユーロライブにて上演。
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