井ノ原快彦と上田誠が15年ぶりにがっつりタッグを組んで、お互いが愛する“フォークソング”をモチーフにした音楽劇を上演する。ヨーロッパ企画の“特別興行”である『世界の終わりかけとスリーコード』は、電気を失ったことで文明が崩壊し、そして空前のフォークソングブームが始まった近未来の日本を舞台にした“SFロードムービーフォークソング劇”だ。そもそも井ノ原が、上田の作・演出する舞台に出演するのは2008年の『昭和島ウォーカー』、2011年の『芝浦ブラウザー』に続く3作品目となる。今回はどんな舞台になりそうなのか、言い出しっぺの井ノ原と上田に作品のヒントを語ってもらった。
■3度目のタッグは“構想15年超え”!?
――今回の企画が始動することになったのは、どんなきっかけからだったんでしょうか。
井ノ原:3年前、京都・南座でのヨーロッパ企画25周年の特別興行にシークレットゲストとして呼んでいただいたんですが、その時の打ち上げで上田くんに「僕ももうちょっとで50歳になっちゃうから、久しぶりに何か一緒にできないかな」と相談してみたのが出発点だったかもしれません。だけど振り返ると、前回出させていただいた15年前の『芝浦ブラウザー』が終わった後にも確か「じゃあ、次はフォークソングの話をやろう」みたいなことを言っていた気がするんですよ。
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上田:そう、だけど3年前に話した時点ではフォークの話はしていなくて。最初は「井ノ原さんの一人芝居にしようか?」なんて案も出ていたんだけど、結局は「やっぱり、みんなでやるのが楽しいよね!」という話になったんです。
井ノ原:僕も「別に50歳だからってことももう関係ないか」みたいな気になってきちゃって。
上田:そもそも井ノ原さんと初めてご一緒したのは18年前で、あの時は僕自身は、初めての外部公演だったし、流れに乗っかるようにしてご一緒できてた感覚だったんです。でも今回はこの話を立ち上げるところから、2人でじっくり話をして。僕としてもこれまでに自分で何かやりたいと思ったことを、少しずついろんな人を巻き込みながら実現させていく力もついてきましたしね。もちろん今回も井ノ原さんとまたご一緒することを含め、いろいろな意味で結構ハードルが高い企画だとは思うんですが、それを自分たちの力でちゃんとこぎつけられるタイミングに来たんだなとも思っています。
――15年前にアイデアが出ていたということは、井ノ原さんがフォークソング好きだということはかなり早い段階から上田さんと共有できていたということですか。
井ノ原:たぶんそうですよね。
上田:そうだと思います。
井ノ原:「この曲、いいよね」とか「これもいいんですよ」って、お互いに好みの音楽を教え合ったりしていたから。そんな中でなんとなく京都の音楽の文化を教わったりもして、京都にまつわるフォークソングをCDにまとめてくださったこともありましたね。あの時、フォークソングの話で盛り上がったんじゃなかったかな。
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上田:僕、確か最初に井ノ原さんとご一緒した時に、ギターをいただいているんですよ。
井ノ原:ああ、あげたあげた、ギルドのね。大阪の楽屋に持っていった記憶がある。
上田:そうです、使われていたギルドのいいやつを。と、いうくらいなので、その頃から好みの音楽の話はしていたんだと思います。
――だとすると、この企画は15年以上構想を練っていた、ということになるかもしれない?(笑)
上田:本当にそうですよ。だけど昔ご一緒していた当時には、まだやり方が分からないことも多かったけど、今ではちょっと分かることも増えてきましたしね。僕もいろいろなことを少しずつ試しながらやってきていて、たとえば劇中の音楽の使い方とかにしても、こう使えばこんな見え方になるというような知見を溜めてきたわけで。そういったことが、お互いにあるんじゃないかなと思いますね。
井ノ原:また日本のフォークって独特な文化でもあるし、それにこの題材に取り組む、今この時代を生きている僕ら自身も本当にこれまでいろいろなことを経験してきたわけじゃないですか。通信や音楽に関するもので言えば“ポケベル”から何からどんどん変わっていく中、全部覚えたと思ったら捨て、覚えたと思ったら捨て(笑)。音楽だってレコードからカセット、MDとかCD、そしてサブスクに至るまで、それぞれに全部経験し、それを捨ててきた。でも、その捨ててきた中にもいまだに愛しているものもいっぱいあって。そんなこの日本で、ミュージカルではないけれども楽器を演奏し、歌ってお芝居をするという今回は、すごく特別なものになっていきそうな気がしています。そう考えると、実はすごいことを15年前から話していたんだなあ、とも思いますね。
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■全曲オリジナルの劇中歌に「なんだこれー!」
――ミュージカルではないということは、お芝居の要所要所で歌が入ってくる構成になるんですか。
上田:そう、劇中歌という感じですね。
――井ノ原さんもかなり?
上田:ええ、かなり歌われますよ(笑)。僕もこれまで2度、トニセンさんのコンサートを手伝わせていただいているので、その経験も活かせそうです。
井ノ原:前回のライブでは、もう上田くん無くしては! というくらいに、また新しいものができましたからね。
上田:今回の舞台はほかにも音楽監督の王舟さんを始め、僕と井ノ原さんがお互いにやりたいことをやっていく中で知り合ってきた中から、特にこの人なら! と思う方々にお声がけして集まっていただいたメンバーばかりですので。そう思うとやはりこの歳月が、この場を作ったと言えそうです。
井ノ原:いやホント、確かにそうですよね。
――ちなみに今回はフォークソングの音楽劇ということですが、それは全部オリジナルの楽曲で構成されるのでしょうか。
上田:そうです、オリジナル曲ですね。
――では、昔懐かしい曲が歌われるわけではない?
上田:もちろんそうなんですが、ただし設定が、文明が崩壊した後のお話で。つまり電気が使えない中の日本各地で、たとえば横浜なら路上ミュージシャンたちがこの時代にも街頭ライブをやっていて、たとえば中央線沿いにはいわゆる中央線フォークと呼ばれていた人たちの残党がいて。それぞれの土地に合わせて、あちこちに“トライブ”ができているわけです。
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――なるほど、電気がなくてもライブができるからフォークソングなんですね。
上田:そうです、そうです。歌というものは、人から人へと歌い継がれていくものでもありますから。なので、今まさにそういった匂いも残しながらそれぞれの土地の個性を引き継いでいる、ということが連想できそうな楽曲を作っている最中です。先程も何曲か、井ノ原さんに聴いてもらったところなんですけど。
井ノ原:そうそう、「なんだこれー!」って、予想していた以上に匂いが残った曲ばかりで面白かった(笑)。
――どの曲にインスパイアされたのか、聴けば誰もがわかってしまうような?
上田:たぶん、面白いことになると思います。
井ノ原:いや、絶対に面白いです(笑)。
上田:あまりにも寄せ過ぎないように、塩梅に気をつけます(笑)。
■井ノ原快彦、長年共演の六角精児と舞台で再会
――そして今回は六角精児さんが参加されるというのも、井ノ原さんとはご縁のある方だけに気になります。
井ノ原:とはいえ、舞台でご一緒するのはすごく久しぶりなんですよ。音楽についての話はいろいろなことを教えていただいてきましたし、共演する作品の中で六角さんがギターを弾いてくれたりしたこともありましたけど、フォークにまつわる物語で一緒にお芝居を、というのは初めてのことで。しかも今回はヨーロッパ企画の上田くんの仲間たちに加え、僕とさまざまな場所で一緒に過ごしてきた人たちが集まる中に、こうして六角さんの名前もあったりするのはとてもうれしいことで。本当は大変お忙しい中だと思うんですけど、でもすごく楽しみにもしてくれているみたいです。
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――そうなんですね。もうこの舞台のことに関して喋ったりもされているんですか。
井ノ原:はい。だけど実は、この芝居の前、9月に六角さんと一緒にライブに出る予定なんですよ。だから今は、まずはそっちの話をしてます(笑)。
上田:もともと、そのライブのほうがこの企画より前に決まっていたんですよね。
井ノ原:最初は「フォークイベントをやりたい」という話から、「じゃあぜひぜひ」なんて言ってたんだけど、なかなかうまくタイミングが合わなくてね、なんて話をしている時にこの企画の話が出て来て。「だったら、六角さんも出てくれないかな?」ということになったんです。
――ちょっとしたタイミングで、フォークソングきっかけであちこち繋がっていくんですね(笑)。
井ノ原:だけど実際、出てくれる人がみんな忙しい方ばかりで、こんなスペシャルな人たちが集まれる機会もなかなかないですから。本当にタイミングと縁が、今回はうまいこと繋がったなと思っています。
――上田さんにとって、六角さんはどんな存在なんですか。
上田:当然、演劇界の先輩ですし、今まで僕の作品、映画にも出てくださっていますし、ヨーロッパ企画のメンバーとも何度かご一緒させていただいていて。だけど、お会いしたことだけなかったんですよ。
井ノ原:えっ、そうだったんだ。
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上田:出られている作品はもちろん拝見していますし、書いたものに出てもらったりもしていたので既に旧知の方、という感覚にもなっているんですけどね。それに変な言い方ですがお互いにこんなに長く続けているわけですから、いつかは会えるんだろうとは思っていたんです。それが今回、やっと実現するという感じです。
――井ノ原さんと六角さんは、どんな役回りになるんですか。
上田:井ノ原さんは、旅するフォークシンガーです。電気が止まっている中でも世界各地を旅して回っていたんだけど、東京がなんだか変なことになっているらしいというので帰ってきた、という人ですね。タイトルにある“スリーコード”はフォークソングで良く使う3つのコード(C、F、GまたはG7)のことで、これがわりと少なめのコードではあるんですが、そこには「それだけでいいんだ」みたいな強がりや、「Fって難しいんだから」っていう話とかも絡んでくるわけです。そしてそのシンガーの師匠にあたる人が、六角さんなんですね。
――普段の人間関係にも近かったりすると、やりやすくもあり、照れ臭さもあり?
井ノ原:そうかもしれない(笑)。
上田:でも、近過ぎる関係もどうかと思うので、“今はいない人”という設定にはさせてもらっています。
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――伝説の人、みたいな。
上田:そういうことですね。
■久々の舞台に緊張&ワクワク「1から思い出すことも楽しみ」
――改めて、井ノ原さんは上田さんと一緒にお芝居をやるにあたって、一番の楽しみはどういうことですか。
井ノ原:一緒に何か作るのがすごく楽しいので、また毎日稽古ができること自体が面白そうだし、幸せですね。稽古中、毎回「これ、きっとお客さんが見たら大変なことになるぞ~!」ってワクワクするので。舞台の仕事も本当に久しぶりだから「どんなだっけな?」と、少し緊張もしちゃいそうです。別に自分の中でリセットしてはいないんだけど、しばらく間が空いたことが意外と大きくて。だけどそういう緊張もワクワクも込みで、「そうか、この感じだ!」と1から思い出すことも今は楽しみです。
――では最後に、お客様に向けてお誘いのメッセージをそれぞれからいただければと思います。若い方とかだと、フォークソングにあまりなじみがない方もいらっしゃるかもしれませんが。
井ノ原:でもフォークソングと言っても古いものだけでなく、それこそ、あいみょんだってギターを弾きながら歌っていますしね。何周か回れば、新鮮に感じるものもありそうですし。それに、やはりまずは笑いに来てほしいんですよ。僕もいろいろと舞台を観ていますけど、その中でもヨーロッパ企画の場合は自分自身としても観ていると笑いの数がめちゃくちゃ多くて。「ずっと笑ってたな、結局」っていつも思うし、本当にストレス発散になるんです。それも自分だけじゃなく、周りの人たちが「あんなに大声で笑うんだ……」ってちょっとビックリするくらいに笑ってる舞台って、すごく健全じゃないですか(笑)。「これぞエンタメだな」って、すごく思う。とにかくいっぱい笑いたい、という人にぜひ来ていただきたいし、その中に音楽もたっぷり盛り込まれているので、若い世代の人にも新鮮に感じられる舞台になると思いますよ。
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上田:“フォークソング”というテーマ自体、自分でも「これは面白い遊びを見つけたな」という感覚があって。井ノ原さんと最初にご一緒した『昭和島ウォーカー』ではお互いに“工場”にゆかりがあって、次は不動産というか“セルフビルド”みたいなことに興味があった中で『芝浦ブラウザー』という作品をやって。そうやって趣味の重なるところで、面白い遊びを見つけてお芝居をやっていたんですね。それから15年空きましたけど、今回の“フォークソング”もまさに、一緒に遊べたら面白いだろうなという題材なんです。
演劇なんですけど、そこに歌の要素がここまで加わるというのは、ヨーロッパ企画の本公演のほうではやっていないことでもありますから、ちょっとプラスアルファのことが今回はできそうだなと思っています。だから、作る側の僕らが一番楽しみにしている感じもあって。だって、みんな勝手にギター習いに行ったりとかしているんですよ。歌ってもらう予定のなかった人まで、習い出したからどうしようかと思って(笑)。
井ノ原:ハハハハ! 本当に?
上田:この人の曲は用意してないんだけど、言いづらいな……って(笑)。そのくらい、既にみんな楽しそうです。ビジュアル写真の撮影の日から音楽監督の王舟さんが来てくださってて「1時間で帰ります」と言ってたはずが、結局6時間かけて代わるがわる順番にみんなにギターを教えていましたからね。そんな風に早くも大変面白い現場になっていますので、ぜひ楽しみに劇場まで来ていただければと思います!
(取材・文:田中里津子 写真:篠塚ようこ)
ヨーロッパ企画特別興行『世界の終わりかけとスリーコード』は、東京公演・サンシャイン劇場にて10月13日~25日、大阪公演・SkyシアターMBSにて10月29日~11月1日、宮城公演・多賀城市民会館 大ホール(多賀城市文化センター内)にて11月7日~8日、福岡公演・キャナルシティ劇場にて11月14日~15日上演。
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