ONEOR8による舞台『台所の女たちへ』が9月から10月にかけて上演される。本作は、60年という時代の流れを、台所という女性にとって象徴的な場所から紡がれる物語。軍事産業で財を成した二村家で行われる通夜に集まった女性らの会話から、変化していく女性の姿を描いていく。今回は、ONEOR8劇団員の恩田隆一、山口森広を中心にキャストが全く異なる2チームでの上演が決定。恩田組で出演する田中真弓、山口組で出演する榊原郁恵(「榊」は「木へんに神」が正式表記)の過去に田村作品に参加したことのある2人と作・演出の田村孝裕の3人に、作品に挑む心境を聞いた。
■「女性の象徴の場所」“台所”で描く女性たちの物語
――本作の制作にあたって、着想はどのようなところから得られたのでしょうか。
田村:もともとは、劇団青年座の創立60周年記念公演(2014年)として制作した作品です。当時、「最近、青年座の劇団公演から離れてしまっている上の世代の方々も出したい」というオーダーがあり、その中には戦争経験者の方もいらっしゃったので、せっかくの60周年ですし“この60年の話”を書こうと考えて、書き下ろしました。舞台を台所にしたのは、そこがかつての「女性の象徴の場所」だったからです。女性が台所に立つのが当たり前だった時代を描くにあたって、女性たちの物語を描く場所として、僕の中で一番しっくりときたのが台所でした。
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世界では今なお戦争が続いています。最近はジェンダーレス化が進み、男女の差異も少なくなってきましたが、かつては確かに、男女差を大きく感じる時代がありました。昭和から令和へ、さまざまなものが受け継がれていく中で、女性たちが世代を超えて変わっていくさまに焦点を当てれば、今、観ていただきたい作品になるのではないか。そういう思いがあり、いつか再演したいと温めていました。
――作品に関して、第一印象はいかがでしたか?
榊原:お話をいただいた段階では、普段の私に来る役とはちょっと違うな、と戸惑いもありました。でも、田村さんにお任せすればなんとかなるだろうとお引き受けしました。今は「台所」なんて表現よりも「キッチン」と呼ぶほうがしっくりくる場所になっていますが、私も昭和の人間なので「昔のおばあちゃんの家はこんな感じだったな」と思い出しながら台本を読みましたね。子どもの頃、親戚が集まる法事や葬儀の場って、本当は悲しいはずなのに、にぎやかで楽しかった経験もあって――そういう自分の記憶や情景を含みながら読み進めると、とてもリアルで、会話劇としてのリズムが面白かったです。
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ただ、私が演じる京子はいわゆる「愛人」の役。本当は台所に来ちゃいけない人間のはず。そこが、普通に行けてしまっているのが、また面白いですよね。まだ試行錯誤している段階ですが、これからいろいろと消化していければと思います。
田中:私は青年座さんでの公演も観ておりまして、大好きな作品でした。でも、私が出ている舞台は歌があったり喜劇だったり……はっきり言って、コントに毛が生えたような作品ばかり好んでやってきたので(笑)。大好きな作品だけど、私ができる役はないな、と思いながら観ていたんです。ですから、お話をいただいたときは「えっ!? どこに私が?」と驚きました。
これまで出てきた作品の稽古でも「余計なことはしなくていい」と言われがちで、コント寄りのお芝居なので、ついつい「笑わせなきゃ」「もう一歩踏み込まなきゃ」とサービスしたくなって、お客さんを見たり、客席に体が向いたりする癖があるんですよね。でも、今回はストレートプレイ。自然体で演じなければなりません。まだ、大丈夫なのか、自分? とドキドキしていますが、余計なことをしないように気を付けながら(笑)、臨みたいですね。
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■榊原郁恵、“愛人さん”役を探る
――今回、恩田組、山口組と2組のチーム制での上演となります。どのような狙いがあるのでしょうか。
田村:この作品は男性が1人しか出てこないので、必然的に劇団員の恩田隆一か山口森広かのどちらかしか出られないかな、と考えていたんです。これまでも、稽古場でスウィングの方に手伝ってもらったりして作品づくりをしていったことがあるのですが、せっかく能力があるのにどこか代役のような扱いになってしまうのがもったいない、と感じることもあって。だったら今回は、思い切ってダブルキャストにして、各チームを恩田と山口で責任をもって、キャスティングも含めてどっぷりと入ってもらいました。演劇的な仕掛けも含めて、面白いことができるのではないかと思ったんです。
実際に並んだキャストの名前も全然違っていて面白いですよね。まず、シンプルに音無美紀子さんと田中真弓さんが同じ役なんて信じられないでしょ。その並びを見ただけでも、もう個性が出ている。それだけですごくワクワクしましたし、不安にもなりました(笑)。
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僕自身、明確にこれをやりたい、というタイプの演出家ではなくて、役者さんたちの個性を活かしながら作品にしたいと思っているので、きっと演出も全然違うものになるだろうと思います。ただ、現場は女性ばかりになるので、僕がまとめられるかどうか…(笑)。
田中:本当に、楽しみ半分、大丈夫か? 私、の不安半分です。私は恩田組ですがキャストの皆さんもはじめましての方が多いですね。福島マリコちゃんは付き合いは長いけど、お芝居を一緒にするのは初めてだし。それに、最近はセリフ覚えも遅くなっちゃって、恩田さんにその不安を言ったら「僕も遅いですから、ずっと台本持っていましょう!」って言ってくれました(笑)。本読みがどうなるのか、今から楽しみです。とにかく、恩田さんと物覚えの悪い2人で頑張ります(笑)。
榊原:私は初めての方ばかりで。山口さんもお芝居はいくつか拝見していますが、一緒にやらせていただくのは初めてです。ポスター撮りの日に、山口さんに少しごあいさつをした際に「私で大丈夫ですか?」みたいな会話をしたくらいで、作品についてはまだまだこれから。近々顔合わせと声出しの日があるので、それで皆さんの雰囲気なども分かるかな? と思っているので、楽しみしています。
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――それぞれ、役柄について現時点では、どのようにとらえていらっしゃいますか。
田中:私は、亡くなった二村儀之助の妻で元は家政婦という美代の役ですが、とにかく余計なことはしないように、と。あの時代の、ごく普通の女性なんだろうなということで、そんな愉快なことはしなくていいんだ、と(笑)。その時代の中で、懸命にやるべきことをやり、懐がすごく深い女性だと思います。マーガレットさん(榊原演じる京子の源氏名)とは、全然違いますね。マーガレットさんの存在も分かっていて、達観しているような女性なので、ちょっと落ち着いてやりたいですね。どうです、マーガレットさん?
榊原:なんでマーガレットなんでしょうね(笑)。マーガレットこと京子について、どう探っていこうか、というのが今の正直なところではあります。今の時代の、簡単に言う“浮気相手”とも違って、いわゆる昔の二号さん三号さんがいたような時代の“愛人さん”として、そういう間柄の立場として居たい、という部分はあります。だから、家族の中でも理解というか、理解できなくても受け入れてくれているというか。どこかで気が強かったり、どこかで傲慢だったりするところも含めながら、探していきたいですね。
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■田中真弓が舞台に立つ理由「やらないと“ヘタッピ”に」
――演出家として、田村さんが2人に期待していることは?
田村:お2人とも別々のお仕事でご一緒させていただいているのですが、劇団の公演に出ていただくのは初めてです。この作品において、という部分でお話させていただくと、皆さんが思っていらっしゃるパブリックイメージと劇団の作品とではまったく違うものをオーダーしたいと考えています。真弓さんって舞台にもたくさん立たれていて、でも声優としてすごくお忙しいはずだし、なぜこんなに演劇やるんですか? とお尋ねしたことがあったんです。そしたら、なんて答えられたか、覚えていらっしゃいます?
田中:やらないと“ヘタッピ”になっちゃう。
田村:そう! なんだかすごくないですか?
田中:声優ってそういう仕事なんです。洋画にしても、アニメにしても自分じゃない人の芝居に合わせる仕事で、ブレスのタイミングすらも決められているんです。それをナチュラルに聞こえるように当てる仕事で、それをずっとやっていると“自分の芝居”が分からなくなる。だからもう、不安で不安で……。
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田村:その言葉が僕はすごく印象に残っていて、本当にすごいなと思っているところです。だから、セリフで表現するんじゃなくて、佇まいで表現するみたいなことが必要な役のほうが面白くなる気がしています。
また、郁恵さんには以前『雪まろげ』という作品で、郁恵さんのイメージとは少し違う役をお願いしたことがありました。その時の印象がとっても素敵で、とても印象に残っていたんですよ。今回はさらに、その時よりももっと素行が悪くて(笑)、もっとたくましい役です。チャレンジしていただこうかな、と思っています。とにかくお2人とも、ものすごいエンターテイナーなので、そこを活かしつつ、抑えつつ。どうなるのかはまだ分からないですけど、思っていたのと違う、と言われてしまわないように、僕自身も頑張らなきゃな、と思っています。
――稽古場での雰囲気づくりなどで意識していることはありますか?
田村:基本的にはないですけど、お芝居を観ていて面白かったときはすごく笑います。同じシーンでも面白くなくなっちゃったら笑わないし、そこはすごく正直にやっています。無理して笑うようなこともしません。そういう意味では、素直にお客さまに向けても表現しているかもしれないですね。でも、こんなに笑う演出家はいない、と言われてしまう程度には笑っているみたいです(笑)。
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榊原:そう、本当によく笑ってる(笑)。自分で書いていて分かっているはずなのにね。
――最後に、上演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。
榊原:まだ未知の世界ですが、台本はとても面白いです。その台本の面白さをしっかりと表現して、それを超えられるように頑張ります! 2組に分かれていますので、山口組よりも恩田組のほうが面白かった、なんて言われてしまわないように、チーム一丸となって。その一員として頑張りますので、ぜひ両方を観比べていただきたいですね。
田中:私の場合は、私の親戚さえも「音無さんと郁恵ちゃんのほうが観たい」と言っていたので。「じゃ、2回観に来なきゃダメね」って答えましたけど(笑)。ぜひスケジュールを早めに抑えて、恩田組、山口組の両方を観ていただければと思います。
田村:すごく個性的で、まったく違うキャストのみなさんに出演していただけることになりました。どうしてもダブルキャストって、どっちが面白かったとかの話になってしまいがちですが、今の時代だからこそ、違ってて面白いね、ということが素直に提示できるような気がしています。同じセリフなのにこんなに違うんだ、すごく違っていて両方とも面白かった、と言っていただきたい。そういっていただけるよう、稽古に励んでいきます。
(取材・文:宮崎新之)
ONEOR8『台所の女たちへ』は、9月26日から10月12日まで、東京・下北沢ザ・スズナリにて上演。
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