9月11日より彩の国さいたま芸術劇場 小ホールにて、多摩美シアタープロジェクト びびびvol.2『大工』が開幕する。本企画は、多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科が昨年立ち上げたプロジェクト。vol.1は、糸井幸之介が新作『アートマーザー』を書き下ろし、ままごとの柴幸男がドラマトゥルク、コンドルズの近藤良平が振付、FAIFAIの野上絹代と15名の学生が共演を果たし、話題を集めた。vol.2は、2016年に柴幸男が同学科の第一期生に向けて書き下ろした『大工』を10年ぶりに再演する。2026年を生きる学生たちと舞台芸術界の第一線で活躍する教員らが一丸となって、今年も一度きりの舞台創作に臨む。開幕1週間前、ひと夏をかけて『大工』という作品の建設に励んだ学生たちの熱が溢れるキャンパスで、作・演出を手がける柴幸男に本作への思いを聞いた。
◆震災、戦争、家族の在り方 時の経過が作品に与えた変化
――『アートマーザー』から1年、今年も<びびび>の季節がやってきました。前作ではドラマトゥルクとして参加され、今作では作・演出を手がけられる柴さんですが、まずは昨年を経ての実感をお聞かせいただけますか?
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柴:糸井さんの『アートマーザー』がすごくいい作品だったので、次に自分が作・演出をやるのは正直なところプレッシャーもありました。そのくらい、とてもいいスタートを切れた、と感じたんですよね。だからこそ、是非このバトンを次に繋げていきたい。そんな思いでクリエーションに取り組みました。第一回は手探りながらもなんとか取り組んだ部分がありましたが、観客として『アートマーザー』を観ていた学生が『大工』のキャストに応募をしてくれたり、当時高校生だった子が影響を受けて多摩美に進学してくれたりと、喜ばしい反応も多くありました。「舞台芸術を志す学生の1つの目標設定となるような授業になったらいいな」という思いがあったのですが、そのあたりが学生の中でもだいぶ浸透している感触を受けて、とてもうれしかったです。学科の総力を挙げた公演として、今年もいい感じの仕上がりになっていると感じています。
――今年の演目である『大工』は柴さんが第一期生の授業演目として書き下ろされ、卒業公演などでも上演された縁深い作品でもあります。作品の選定にはどんな思いがあったのでしょうか?
柴:最初は新作を書き下ろすという手もあると思って、悩んでいたんです。でも、実はこの『大工』という作品は舞台美術の金井勇一郎先生をはじめ、「もう一回やってほしい」という声が結構挙がっていた作品でもあって……。おっしゃる通り、思い入れの深い作品でもありましたし、そうした声をとてもうれしく思っていたので、僕としても「もう一度やりたい」というモチベーションになり、再演を決めました。
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――『大工』は10年ほど前に書かれた作品ですが、今改めて拝読しても、身に迫るような思いがするというか、端々に世界への鋭く切実な眼差しを感じる作品だと感じました。改めて、柴さんが執筆時に作品に込めた思いと、そこから時を経て新たにこの作品を立ち上げるうえで感じていることをお聞かせ下さい。
柴:初演時は「震災」のことをすごく考えていたので、端々にそうしたイメージが強く反映された作品になったと感じています。劇の中でも、架空の天災が起き、そうした厄災によって家が壊れてしまったり、あるエリアに住めなくなる人たちが出てきたり、あるいは、自分たちの場所でもう1回家を建てるんだ、という運動が起きたりするのですが、それらは明白に東日本大震災の影響を受けて書いたものでした。そこから時は経ちましたが、東日本大震災を巡る問題が全て解決しているとは言い難いですし、他にも災害の影響を受けている地域が国内外にあるというのが現状です。同時に、震災だけでなく、当時は想像していなかったような戦争が世界規模で起きている状況も伴って、作品から得る印象も変化したと思います。震災そのもののメタファーだったものに、より様々なイメージの連鎖が紐付いたというか…。そうした実感を経て、本作はあらゆる暴力を理由に家をなくした人たちのお話でもあるのだ、と思っています。
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――稽古を拝見していてもそのような感触が強く伝わってきて、再演の意味を改めて考えさせられました。加えて、柴さんは上演に寄せて「家族」というテーマの再設定についても言及されていました。
柴:そうですね。個人的な変化ではあるのですが、この10年は僕自身が親を亡くしたり、子どもが生まれたりと、「家」や「家族」に対する意識が大きく変わった年月でもありました。妻や子どもたちは北海道に住み、私は東京と2拠点で生活しているという状況もあり、家族の在り方や家というものへの考え方にも変化が生まれたんですよね。そうした背景もあり、家族間でのあらゆる出来事や一緒に住む人たちのことを題材に「これからの家族とは何なのか」というテーマも再設定し、そこから世界で起きていることへ視野を広げて見つめていきたいと思っているところです。
――学生のみなさんとの稽古ではどんなディスカッションやクリエーションが繰り広げられているのでしょう?
柴:カンパニー内でプライベートな話を積極的に共有することは行なっていないのですが、僕の授業やワークショップでは、稽古前にみんなの今日の調子の確認と「最近あったうれしかったこと」をペアになって寸劇にする、というアップをしているんです。そうすると、それぞれが話したり、演じたりしてくれることの中にその人ならではの生活像が浮かび上がってくるんです。例えば、家族とどこかに出かけた話や、一人暮らしの様子、帰省をしたというエピソードなど、なんとなくその人からアウトプットされる情報や情景があって…。そういうものを互いに吸収したり、想像し合いながらクリエーションに向かっていく、という感じで進めています。あとは、最近はほとんどやっていなかった「作者本読み」というものもやりましたね。
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――それは、文字通り作者である柴さんが自ら『大工』をお読みになるということですか? すごく興味深いです。
柴:「作者本読み」は、かつて新劇とかで結構行われていた手法の一つなのですが、色々と思うところがあり、再び取り入れみたいと考えたんですよね。学生のみんなにいきなり役柄を渡したり、セリフを読んでもらうのではなく、まずは僕自身が一通り読んでからみんなに託す。作者が一度本を読み切ることで作者としての役割を区切り、以降は演出家としてパフォーマンスをどう作るかっていうことに一緒に向かう。そういう意味で、スタートラインをしっかりと引いてからクリエーションを始めたいと思ったんです。
◆学生と教員、プロとプロ 混在するコラボレーション
――振付・出演として近藤良平さんをはじめ、ドラマトゥルクの野上絹代さん、応援団長の糸井幸之介さんと、昨年同様プロフェッショナルたちの協働にも注目が集まっています。
柴:『大工』はベートーヴェンの『第九』にかかってもいて、近藤さんにはまさにベートーヴェン役を担っていただくのですが、ほぼ出ずっぱりで指揮をしていただくんですよ。近藤さんが指揮を振ると、やはりそこからダンスが始まる。俳優のみんながその動きの一つひとつに影響を受けていることが感じられ、刺激的だなと感じます。僕はどうしても演劇サイドからのアプローチで作品を形作っていく節があるのですが、近藤さんが音楽やダンスの切り口から作品を作ってくれているので、そうした挟み撃ちのような魅力が感じられる作品になっていると思います。
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――『アートマーザー』も鮮烈な舞台風景でしたが、今回も「家」の欠片のようなものが方々から集まってきたり、はたまた散らばったりと、繊細かつダイナミックな舞台美術や構図にも目を奪われました。そうした空間づくりにおいてはどんなことにこだわっているのでしょう?
柴:まず、彩の国さいたま芸術劇場がすごく素敵な空間なんですよね。というのも、僕は『アートマーザー』の下見で初めて小ホールを訪れたので、すごく感動をしたんです。この素敵な空間といかにして濃密なタッグを組めるか。そんなことを考えさせられる劇場でした。美術も昨年同様に学生がコンペを経て担当しているのですが、「『マインクラフト』みたいなブロックがあったら面白いかな」とか、興味深いアイデアも出てきたりして…。客席が半円形みたいになっているので、声の通りや音の響きを鑑みて美術を配置したり、結構色々な側面から考え抜いたので観客の方にも楽しんでいただけたらと思います。
――学生と教員がアイデアを出し合いながら一つの上演に向けて創作をする。この他ではなかなか見られない光景は<びびび>というプロジェクト最大の魅力でもありますよね。
柴:そうですね。僕自身もこの場だから試せることや、選べることがあると日々感じています。例えば、今回の美術を一つとっても、自分の劇団やプロデュース公演だとしたら、恐らく選ばないような美術プランなんです。僕個人としても、東京で長編作品を作るのが久しぶりだったので、「今までの自分がやらなかったことをやってみようかな」と思ったりもして、使いこなせる気がしないものに不安を覚えながらも挑戦することができた気がします。結果的に使いこなせたのかというと、やはりだいぶ苦戦はしたんですけど(笑)。でも、稽古を重ねていく毎に、俳優たちもどんどん空間と仲良くなるというか、自分の手足の延長線上に美術があるように使えるようになってきたので、挑戦してよかったと思いました。今は「早く劇場に持って行って試したいね」とみんなでワクワクしています。
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――この場だから試せること、選べること、そして挑戦できること。学生にとってはもちろん、教員でありプロの表現者であるみなさんにとっても刺激的な創作現場であることが伝わるお話です。
柴:僕はこれまでも学生や市民の方など、経験にバラつきがある方と話し合いながら作品を作ることが比較的多かったので、普段自分がやっている感覚を応用している部分も結構あるんですよね。一方で、近藤さんや糸井さんや野上さんなど、プロ同士のコラボレーションはすごく新鮮です。自分の他に演出家が3人も現場にいてくれる環境なんてまずないですから(笑)。刺激や影響を受けることも多いですし、「自分の演出って一体なんなんだろう?」ということもすごく考えさせられるんですよね。
<びびび>
の作品性を培う過程で、このコラボレーションの状態はすごく面白く作用していると感じます。稽古場があまりにも頼もしいので、今後がちょっと不安になりそうなくらい。当たり前だったことなのに「あ、今日は演出家は自分一人なんだ」とか思いそうで…(笑)。
◆<びびび>は世にも珍しい、 新たな劇団の形?!
――<びびび>というプロジェクトや『大工』のクリエーションを通じて、柴さんが学生のみなさんに伝えたいことはどんなことでしょうか?
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柴:自分が学生だった頃を振り返ると、作家や演出家がいて、みんなでその人のやりたいものを作っていくタイプか、みんなでフラットにわちゃわちゃ作るタイプかの2通りだったように思うのですが、<びびび>はそのどちらでもないと思うんです。複数人の、領域がバラバラなプロが混在していること。作家でも、演出でも、役者でも、ダンサーでも、美術や照明や衣裳など領域がどんなものであっても、学生たちが今後舞台芸術を目指すうえで、こうした現場を経験しておくことはとても意味があると思っています。このユニークな創作現場を1つのモデルとして、いいところは吸収してほしいですし、変えられるところもどんどん見つけてほしい。こんなに時間かけて、贅沢に作品を作れることはそうそうないですから、この経験を今後待ち受けるタイトな現場でどう活かしていけるかについても、一緒に考えていきたいと思っています。
――最後に、<びびび>プロジェクトの一員として、柴さんが思う展望をお聞かせ下さい。
柴:パンフレットでも少し言及したのですが、僕個人としては、新しい劇団のようにも感じているんですよね。大学母体のコラボレーション前提の劇団というか…。出演者も学科の学生たちから選ばれていくので、初めて出演する1年生もいれば、昨年も出演した3年生もいる。そして、もちろん卒業して、社会に出ていく学生もいる。そんな中で、お客さんたちが「今年はどんな演目をやるんだろう?」とか「去年も出ていた俳優がいたね」と、それぞれの見方で公演を楽しみにしてくれたらいいなと思っています。研究会やサークルなどの大学演劇ともまた違う、新たな劇団の形になれたらすごく面白いですし、2回目にしてすでにちょっとなりかけているんじゃないかな、っていう感覚もあります(笑)。年に一回ある、少し不思議な劇団の公演を楽しみに待ってもらえるように、今後も<びびび>ならではの方法と在り方で、作品やカンパニーを育んでいけたらと思います。
(取材・文:丘田ミイ子)
多摩美シアタープロジェクト びびび vol.2『大工』は、9月11日~13日埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 小ホールにて上演。
※撮影協力:多摩美術大学 上野毛キャンパス オクルスホール
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