シンガーソング・ライターや映画監督、プロデューサーなど多才な顔を持ち、役者としてもアジアを拠点に広くテレビや映画で活躍するディーン・フジオカ。主演と製作を兼任。第37回東京国際映画祭の「ガラ・セレクション」部門にも選出され、話題となった異色のホラーアクション『オラン・イカン』が公開中だ。シンガポールとインドネシア、日本、イギリス合作となる同作で、日本刀を武器に半魚人との全面対決に臨んだ彼に、過酷を極めたというインドネシアでの撮影エピソードを聞いた。
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■インドネシアでの撮影は「とにかく、しんどかった」
舞台は第二次世界大戦下、重罪を犯した日本兵の斎藤(ディーン・フジオカ)は、敵軍の英兵ブロンソン(カラム・ウッドハウス)と鎖で足を繋がれたままインドネシア近海の無人島に漂着。現地に伝わる未確認生物<オラン・イカン(半魚人)>に襲われる。
元々、大の映画好きのディーン。初めて劇場で観たのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(1989年)と『シザーハンズ』(1990年)の2本立て。イギリスのガイ・リッチーや、ポーランドのクシシュトフ・キェシロフスキの作品を繰り返し観て、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)の永遠の闇を生きる吸血鬼に心惹かれたという。今回、脚本を一読し、確かな手応えを感じたという本作について「パッケージはジャンル映画風だが奥が深く、アウトローな男と半魚人の間に言語や種族を超えた共存が描かれている」と明かす。
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ディーン扮する主人公の斎藤は、同調圧力が当然の戦時下で強い信念を貫く男。罪人として英軍捕虜と鎖で繋がれ、殺し合いを命じられるハードな場面から傷だらけの受難が始まる。「彼は人や自然に対して謙虚さを持ち、静かな知性を宿す寡黙な軍人」と、役柄を分析するディーン。「サムライの矜持を心に残す旧き日本人」を演じるうえで、中途半端な違和感があっては不本意だと、自らプロデュースにも名を連ねることになった。
一方、反目しながら斎藤の良き相棒となる英兵ブロンソンは粗野で血気盛んなタイプ。自分とは好対照な男を演じる英人俳優、カラム・ウッドハウスを「イージーゴーイングなプロフェッショナル」と評すディーン。「お互い半裸状態でボロボロになりながら、ずっと一緒に過ごした。アジア初体験の彼の挙動も楽しかった」と、息もピッタリなバディぶりをのぞかせる。
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しかし、インドネシアでの撮影は一筋縄ではいかなかった。タフなディーンも「とにかく、しんどかった」とひとこと。撮影は2023年10月頃。現地は乾季だが、ロケ地は蒸し暑いジャングル。一番近い町から車で5時間かかる僻地にベースを組み、機材を担いで45分道なき密林を歩き、カメラを回した。一行は電気もない粗末な小屋に宿泊し、夜は天井から虫が降り、目や鼻の穴に入るのでマスクが必須。当然、エアコンや冷蔵庫もなく、「自分は今、何をやってるんだろう」と自問する毎日だった。
そこでは日常が即ち、劇中同様の壮絶なサバイバル。「全てがいちいち常識を超えてくる。自分の生存能力に頼らないと前に進めない。本番とそれ以外の区別がないんですよ」と現場を振り返るディーン。「途中から演技じゃなくなるんですよね」と笑う。軍服を着て長靴を履き、刀と銃を持って川を渡る場面では足が底につかず、水面を漂う毒ツタの液に触れて半身がかぶれた。誤って水を飲んでは「大丈夫かな……」と青ざめたという。
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■日本刀は真剣「背筋が凍る思いで、粛々と刀を振るいました」
過酷な現場ゆえ、実際に怪我人も出た。「現場はアップダウンがあるし、草で足が滑るんですよ。一応、衛生班はいるけれど、崖から落ちて負傷したスタッフの絶叫が夜のジャングルに絶え間なく響いてね。いたたまれない気持ちと、次は自分かもしれないと身がすくみました。言葉もないですよね。戦争ってこんな感じかもしれない」。
だが、撮影は続く。アクションも肉弾戦や水中戦、武器や銃を駆使したりと多種多彩。しかも、相手は人間のみならず、強靭な半魚人もいる。さらに芝居に用いる小道具の日本刀はなんと本身の真剣。剣技経験のあるディーンも「背筋が凍る思いで、粛々と刀を振るいました」とのこと。また、巻頭の船内バトルは「海以外は全部本物」。スタジオに実寸大の船のセットを組み、自ら甲板から飛び降りた。フィジカル面のみならず、メンタルを試される体験だった。
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また、ディーンが「国際社会」に例える多国籍現場も型破りだった。クルーは英米とシンガポール、インドネシアの混成チーム。文化や言語、常識が異なる集団は衝突も日常茶飯事だったが、逆にそれぞれの国での映画作りを知ることが出来た。「共通言語は映画だけ。万事が流動的で、絶対揺るがないのは、今、何時かってことだけ。そんな感覚を味わいました」。
■「今後、壁にぶつかることがあっても、乗り越えられる貴重な糧になった」
アクション監督はジェイソン・ステイサムのスタントを務め、『キングスマン』(2014年)に参加したクレイグ・ミラー。半魚人はハリウッドで『プレデターズ』(2010年)を手がけるアラン・ホルトがデザインした。ホラー映画好きを公言する監督のマイク・ウィルアンは人懐っこい人物で、無茶な演出にもつい応えたくなってしまう好漢。製作のエリック・クーは経験豊富で、時に酔っぱらいつつ、国際的な映画作りについて様々な助言をくれたという。
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インドネシアはスピリチュアルな国で、撮影中もイスラム教の礼拝は欠かせない。「本来、その時間は働いてはならず、破ると祟りがあるんですよ。そうしたら本当に山火事が起きちゃって。みんなでバケツリレーで消火しました。あれも戦争みたいだったなぁ」と、ディーンは再び笑う。
そして、影の主役オラン・イカンとの共演も忘れられない。インドネシアに古くから伝わる実在の(?)未確認生物について「自然の象徴で人間を写す鏡。彼らにも生命の営みと愛情があり、無感情な殺戮獣ではない」と語りながら、ディーンは「間近で見るとビックリするんですよね」と打ち明ける。スーツアクターを務めたのは『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)の大男アラン・マクソン。ジャングルに佇むその姿は、近寄り難い威圧感と自然への畏敬の念をかきたてる、不思議な説得力があった。
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「とにかく濃くて、あまりに特殊な体験。今までやってきたどの作品とも違う。命をかけた1本だった」と本作を振り返るディーン。「今後、壁にぶつかることがあっても、乗り越えられる貴重な糧になった」という。
観るだけでサバイバル能力が急上昇する、南の島から時空を超えて届いた命がけの力作。ディーン・フジオカ史上最高の極限体験を、映画館で共有したい。
(取材・文:山崎圭司)
映画『オラン・イカン』は公開中。
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