荒木飛呂彦による人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に初登場し、単独でスピンオフ作品が出るほどの人気キャラに成長した漫画家・岸辺露伴。高橋一生主演で実写ドラマ・映画化もされ、映画第2弾『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が、本日地上波初放送される。露伴は強い信念と鋭い観察眼を持つ一方、漫画のためなら他人の不利益も厭わない常識の枠を超えた言動も珍しくなく、ファンから「黄金の精神を持った畜生」と呼ばれることもある。ここでは、そんな岸辺露伴の強すぎる個性と魅力が分かるエピソードを紹介したい。
■『読んでもらうため』にマンガを描いている!
まずは上記のセリフを覚えておいてほしい。これは、サインをもらいにきた高校生・広瀬康一たちに露伴が説いた創作の哲学だ。面白い漫画には体験とリアリティが不可欠だと考える露伴が漫画を描く理由は、「読んでもらうため」。それ以外は“どうでもいい”と言い切っている。
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「どうでもいい」という表現は例えではない。この中には金や名声はもちろん、場合によっては他人の不利益も含まれており、この哲学をもとに行動する露伴は行き過ぎた好奇心から暴走することも少なくない。
以下がそのセリフの全貌である。
「ぼくは『読んでもらうため』にマンガを描いている! 『読んでもらうため』ただそれだけのためだ 単純なただひとつの理由だが それ以外はどうでもいいのだ!」
このセリフには見習うべきものがあるが、他人への迷惑などを考えてバランスを取ろうとする常人と違い、露伴はブレーキをかけない。裏を返せば、それほど妥協を許さず作品と向き合っているとも受け止められる。
■常軌を逸した好奇心の数々
漫画の哲学を熱弁した露伴の行動は、常人の理解からかけ離れていく。彼は『おもしろいマンガ』には体験とリアリティが不可欠だと語り、ある時はトーンナイフで手に取ったオニグモの腹をえぐり、もれ出た体液や臓器を舐め始める。
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「腹をさかれた蜘蛛は死ぬ前にどんな風に苦しみもがくのか」を知るのも必要だというが、『ペチャリ ペチャ』という擬音が強烈だ。作家としての露伴の強すぎる好奇心がうかがえるシーンだ。
露伴の好奇心の強さが分かるエピソードは他にもある。それは火事で半焼した自宅の修理の見積もりで一級建築士・乙雅三が訪れた時のことだ。その時スタンドに取り憑かれていた乙は、背中を見られてしまうと死んでしまうリスクを背負っていたため不自然なまでに背中を隠していた。
しかし、理由が気になる露伴は「どうしても見てやりたくなるじゃあないか! 騙してでも…」と、背中を見たい気持ちを我慢できなくなる。そして、火事でできた床の穴に乙を落とし、身動きの取れない乙の背中を見た結果、乙は死んでしまうのだった。
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これは露伴の強すぎる好奇心が招いた悲劇といえるが、乙が背中を壁や床に擦り付けるような動きは相当奇妙なので、気になる気持ちも理解できる。露伴の行動が引き金となったことは確かだが、乙の不自然な動きを考えると、どこかで同じ結末を迎えていた可能性も感じさせる。
■極端な行動力
露伴は若い頃から漫画家として成功しており、当たり前だが稼ぎもいい。しかし、『岸辺露伴は動かない』の「六壁村」で、露伴は編集者に破産していることを打ち明ける。
原因は山林の買い占め。妖怪伝説の漫画の取材で買った別荘地の山林にリゾート道路を通されそうになったので、妨害のため周囲の山を6つ買ったのだ。そんなことのために…と驚く編集者に対し、露伴は当たり前のように「道路が開通してみろ 妖怪が逃げていなくなっちまうかもだろ? そうなったら台無しってやつだ」と語る。
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結果的にリゾート道路計画が白紙になり、買った山の価格も暴落。文無しになった露伴は、セーラームーンのフィギュアも、レッド・ツェッペリンの紙ジャケットも、るろうに剣心も全て売り払い、仕事場も失くして康一の家に居候することになった。漫画のために平気で財産をなげうつ露伴らしいエピソードである。
■常軌を逸した負けず嫌い
露伴は度を越した負けず嫌いでもある。その性格がよく分かるのが、東方仗助とのチンチロリン勝負。イカサマのサイコロ(に変身した宇宙人・支倉未起隆)で勝負を持ちかけた仗助に対し、異常な敵対心を見せる。
露伴は仗助のイカサマの方法が分からないことがどうしても許せず、自らの左手小指をペンで突き刺す。そして仗助に対し、イカサマを見破ることができなかったら200万で小指の治療を依頼するが、もし見破ったら仗助の小指をもらうと宣言する。
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テーブルに突き立てたペンの軸は完全に小指を貫通しており、第2関節より先がちぎれかかっている。それでも仗助を勝負から降ろさせないために治療を拒み、敗者を逃がさないよう取り立てに適したスタンド使い・小林珠美を招聘。何が何でも逃がすつもりのない露伴の、敵意に満ちた「おまえの小指をもらうぞ」は怖すぎる。
なお、この勝負は露伴の家が火事になったことでウヤムヤになる。だが露伴は「たかが家が焼けてるぐらいどうでもいい!」と避難より勝負を優先し、イカサマを見抜くまでその場を動こうとしなかった。結果的に半焼した自宅の損害は700万。家や身の安全よりも、大嫌いな仗助に負けることのほうが許せない露伴の性格がよく表れている。
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■岸辺露伴の黄金の精神
「だが断る」。これはスタンドの攻撃を受けて窮地に陥った露伴が、仲間の仗助を差し出せば命を助けるという敵の提案を断る、あまりにも有名なセリフだ。ジョジョを知らなくても聞いたことがあるという方も多いだろう。
実際のセリフは「だが断る」の後に「この岸辺露伴が最も好きな事のひとつは 自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやることだ…」と続く。断れば死ぬ可能性が高い局面で、それでも信念にもとる行為は決してしない露伴の黄金の精神を象徴するような名言だ。
偏屈で大人げなく、度を越して負けず嫌いな露伴。褒められたことではない行為も多々あるが、それはひとえに漫画を読者に読んでもらうため、体験が生むリアリティを決しておろそかにしないという信念があるからだ。
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だからこそ、時に人の胸を打つ熱いセリフをさらりと発することがある。彼の人間性を表現したセリフのひとつとして紹介したいのが、「もっとも『むずかしい事』は! 『自分を乗り越える事』さ!」。
これは大柳賢との有名なジャンケン勝負で露伴が言ったセリフだ。ジャンケンを運に任せず、自分を乗り越えることで勝利をつかみ取ろうとする露伴。人間の勇気を讃える『ジョジョの奇妙な冒険』のテーマ“人間讃歌”を象徴するシーンだ。
■生みの親・荒木飛呂彦との共通点
何よりすごいのは、これほど強烈な漫画家・岸辺露伴を生み出した漫画家・荒木飛呂彦氏本人である。荒木氏にとって露伴は自己の投影ではなく理想像らしいが、原稿がとても早いことや、作品にリアリティを求める姿勢、そして圧倒的な作品描写力は漫画家として共通している。
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荒木氏は、若い頃から見た目がほとんど変わっていないことも有名だ。本人の年齢は60台後半なのに、変わらないどころか若返っているようにさえ見える。このことから、“作者は自身の漫画で描いた吸血鬼ではないか…”また“第2部で登場した超常的な能力“波紋”によって高齢とは思えない若々しさを保つリサリサのように波紋使いではないか…”など、さまざまな憶測が飛び交っている。さすがにこれは冗談だが、実際のところは露伴のような規則正しい生活の賜物ではないかと言われている。
さらに、仕事場での荒木氏は奇声を上げながら何かに取り憑かれたように一心不乱に筆を動かすこともあったというエピソードも。この執筆風景も露伴を想起させる。漫画家・露伴の代表作『ピンクダークの少年』が「生理的にキモチ悪いシーンもあるが、迫ってくるようなスリルと本当にいるような登場人物が特徴のサスペンス・ホラー」という点も、荒木氏が生んだ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズによく似ている。
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荒木氏が理想の漫画家として作り上げた岸辺露伴。彼がたくさんのファンに愛されるのは、露伴が荒木氏ゆずりの強烈な個性を宿しているからではないかと思う。(文:二タ子一)
映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』は、NHK総合にて5月3日16時10分放送。NHK ONEで同時・見逃し配信予定。
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