バラエティー番組はもちろん、近年はさまざまな舞台作品で変わらない輝きを放つ久本雅美。この春、「新派・松竹新喜劇 合同喜劇公演」『お種と仙太郎』『明日の幸福』に出演し、家族をめぐる温かな笑いを届ける。今年デビュー45周年を迎え、ますますエネルギッシュに挑戦を続ける久本に、本公演の魅力や舞台に注ぐ思いについて話を聞いた。
◆嫁いびりする姑役も「素直でチャーミングに見えるように演じたい」
――新派と松竹新喜劇が合同公演を行うのは7年ぶり。出演オファーを聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?
久本:めちゃめちゃうれしかったです。松竹新喜劇にはありがたいことにもう何年もずっとお呼びいただいて毎回勉強させていただいているんですけど、新派ですよ? 自分はずっと真逆のところで生きてきたので、出させていただくことになるなんて夢にも思っていなかったです。水谷八重子さんも波乃久里子さんも、いるだけで華やかで存在感があって、芝居が締まるお二人。そういう大先輩の胸を借りて芝居ができるなんてありがたいことですよね。
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――今回上演される2作のうち、メインで出演されるのが『お種と仙太郎』。どんな作品だと感じられましたか?
久本:何年か前にも出させていただいたことがあるのですが、私が演じるお岩の嫁いびりから始まるお話です。かわいい息子を取られたと思い込んで、その腹いせに健気な嫁に意地悪する姑なんです。藤山寛美先生がお岩を演じられた映像を観た時には、藤山先生の演技力にお腹を抱えて笑い転げたのですが、実際に演じてみると本当に難しいなと感じました。やっぱり男の人がおばあちゃんになると、どこかにお笑い的なかわいらしさ、チャーミングさがあって、何をやっても憎めない抜け感がベースにあるんですよね。でも女性がおばあちゃんになって意地悪をするとなると、本当に嫌なやつだな~という感じで隙間がない印象になってしまうんです。すごく悩みながらやらせていただいたことを覚えています。
今回改めてお岩さんと向き合えることはとてもありがたいことです。緊張感はありますが、台本が面白いので、その面白さをちゃんと表現できるよう、緊張感を役作りの楽しみに変えて、意地悪をやっているけどチャーミングに見えるおばあちゃんを演じられたらと思っています。
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――お岩という女性に共感するところはありますか?
久本:姑さんになったことがないからわからないんですけど、かわいい息子がかわいい嫁と結婚してラブラブになったら嫉妬もするし、そりゃ腹立つよね~という気持ちはわかりますね。
いびることに対しての共感はできないけど、大人だったら普通隠すような気持ちも出してしまうっていうのは、素直で正直な人なのかもしれないなと思ったりもしています。
――そんなお岩と対照的な人物・おせいを波乃久里子さんが演じられます。
久本:今回初めてご一緒させていただくんです。なんとも言えない愛くるしさ、優しさ、品の良さが溢れている素敵な方で、憧れます。昨年私が出演した舞台『花嫁~娘からの花束~』を観に来てくださって、「久本に泣かされた~。感動した」と周りの方にお勧めしてくださったようで、本当にうれしかったです。
――そして、大事な息子・仙太郎を演じるのが藤山扇治郎さん、お嫁さんのお種を演じるのが曽我廼家いろはさん。
久本:2人とも前回の『お種と仙太郎』でも一緒だったので心強いです。扇ちゃんは、もう本当にいい子! かわいいし天然だし、子犬ちゃんみたいな感じで、わしゃわしゃ~とかまいたくなる(笑)。奥様の北翔海莉さんと知り合った舞台でも一緒だったんですけど、横から見ていても好きなんだろうな~っていうのがよくわかりました。
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いろはちゃんはしっかりしているし、かわいいし、最高ですよ。また一緒にああでもないこうでもないと言いながら作品を作っていけたらいいなと思います。今回は久里子さんも交えてどう面白くできるのか、みんなで作っていくのが本当に楽しみです。
◆石井ふく子演出に感銘 「心で芝居する」を指針に
――松竹新喜劇には毎年参加されていますね。
久本:もうしょっちゅう出させていただいているおかげで、自分が松竹新喜劇とWAHAHA、どっちの劇団員なのかわからなくなるくらい(笑)。
最初に出させていただいた時は、ちっちゃい頃から見ていた松竹新喜劇ですから、心臓が飛び出しそうになるくらいのド緊張で。でも皆さん私がやったことに対して笑ってくれるし、面白いって言ってくれるし、「これは違いますよね?」「違うな」とやり取りが気持ちよくできるので、すごくやりやすい雰囲気なんですよね。
――松竹新喜劇とWAHAHA本舗で共通点はありますか?
久本:松竹新喜劇は“言葉で笑かす”、WAHANAは“パフォーマンスで笑かす”と、やってることはまったく違いますけど、「面白いものはなんだろう」「喜んでいただくにはどうしたらいいんだろう」ということに対する考え方や思いは同じだと思いますので、全然違和感がなく私も馴染むことができました。
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反対に全然違うのは、松竹新喜劇は下ネタ絶対ダメですから、そこですね(笑)。
――(笑)。今回『お種と仙太郎』のほかに、『明日の幸福』にも出演されます。こちらは、昨年主演を務められた『花嫁~娘からの花束~』に続いて、石井ふく子先生の演出作品となります。
久本:新派のお芝居に初めて出させていただくので、どうなるんだろう?と想像がつかないのが正直なところです。石井先生は大きい方なので「好きにやっていいよ」とおっしゃってくださるのですが、世界観を壊さないというのを大事にして演じたいと思っています。
私、どの芝居でも、絶対に世界観を崩さない、役柄から外れないということを大事にしているんですよね。ただ面白いことをすればいいというのは芝居自体を崩しますし、やってはいけないこと。その人だったらこういうことをするよね、その人だったらこういうことを考えるよねということを基本に、ちょっとひょうきんな女中さんをストレートに演じたいと思っています。
高島礼子ちゃんや三田村邦彦さんと同じ作品に出させていただくのも初めてなので楽しみですね。
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――石井先生との顔合わせは2度目。昨年石井先生の世界を体験されてみての感想はいかがでしたか?
久本:面白かったですね~。先生は本当にパワフルで、毎日お稽古場にお越しになられて、所作も含めて細かいところまでご指導いただきました。怖い方なのかなというイメージもありましたが、全然! 「心で芝居するのよ」とおっしゃっていただいて、1番の基本なんですけど先生がおっしゃると深みがあるというか、「本当にそうだな」「この役の心で芝居しよう」とシンプルに考えられるようになって、自分の芝居がやりやすくなったし、これからも指針にしていこうと思いました。
先生は99歳でしたがものすごくパワフルだから、お足が悪かったんですけど、乗ってくると、「あれ?足どうした?」っていうくらいどんどん前の方に立たれてきて、かっこいいな!と思いました。
――『明日の幸福』には「石井ふく子生誕百年記念」というサブタイトルも付きますが、人生百年時代を体現されている方で憧れますよね。
久本:しかも現役で皆さんにエンターテインメントをお届けされている。“家族”っていうテーマを一生やり続けていくんだ、家族の幸せ、家族の絆、家族こそ大事なんだっていう姿勢は変わらずにずっとやってこられていてすごいですよね。
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◆デビュー45周年 今つくづく舞台って面白いと感じる
――久本さんは今年デビュー45周年を迎えられます。ここまでの芸能生活はどんな道のりでしたか?
久本:面白かったですね。東京ヴォードヴィルショーという劇団に憧れて入り、いろいろ学ばせていただいて、このままじゃいけないという焦りや不安の中でもがいていた時に新しい劇団WAHAHA本舗を立ち上げて。最初は人が入らなくてどうしたらいいか?という中テレビでフィーチャーされたことで一気にお客さんが増えて。まさかこんなに続くとは思わず、気づいたら40何年もやらせていただいて、その中で松竹新喜劇や新派、いろんなプロデュース公演にも出させていただけて、本当に面白いなって思います。
なによりも健康で舞台に立てていること自体が本当に幸せだな、ありがたいなと感じますね。
――ご自身は、こうなりたいという目標に向かってグイグイ進むタイプ、周りの流れに身を任せて進むタイプのどちらですか?
久本:両方ありますね。ひとつひとつ目の前のことをやっていく中でこうやって皆さんとのご縁があったっていうのと、やっぱり生涯現役であり続けたい、いい舞台に出会いたいというような思いがあったからこそ出会えたこともありますし。
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今はもう生涯現役で、やっぱり自分の代表作みたいなものができたらいいなというのが1つの目標にあります。
――この45年の中でターニングポイントを挙げるとするとどの作品になるでしょう。
久本:そうだなぁ~。いっぱいあるんですけど、1つは、私が30代半ばで出た『サードステージ・プロデュース 真夏の夜の夢』(1989)。木野花さんが演出で、古田新太、筧利夫、筒井真理子、池田成志に戸川純。その当時ギンギンにとがっていたメンバーで作ったあの作品は刺激的でした。こんな役者いるんだ!?と。もう毎晩飲んでましたし(笑)。若い人たちのエネルギーの塊で作品を作っていくのがめちゃめちゃ楽しくて。
もう1つ挙げるとすると、商業演劇初体験だった三谷幸喜の『音楽劇 サザエさん』(1994)。私はカツオ役で、サザエさんが榊原郁恵ちゃん。マスオ役が梨本謙次郎くん、ワカメが宮地雅子と素敵な出会いがありました。
――こうしてお話を伺っていると、やっぱり久本さんの真ん中には舞台というものがあるんですね。
久本:舞台をやりながらテレビに出させていただいて、舞台もテレビも好きだからめちゃめちゃ忙しくなって。なかなか稽古にも行けず中途半端なまま舞台をやっている自分が嫌で、しばらく舞台を休んでテレビが落ち着いたらまた戻ろうかなって思った時もあったんです。その時に、たまたま仕事が終わって、うちの若手が80人ぐらいしか入らない劇場の舞台でがむしゃらにお客さんを笑かしているのを見て号泣したんですよね。なんで逃げてたんだと。しゃくりあげながらも負けちゃダメだと決意したんです。それから両方やろうと決めて…。
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テレビっていうのはある意味旬だからいろいろと変わっていくじゃないですか。今、私が舞台をやり続けてきて本当にありがたいことに舞台のオファーもたくさん来るようになって、テレビの方は少しずつ落ち着いていってるのが事実じゃないですか。自分自身が舞台に立ち続けていく割合が大きくなってきたら、舞台って本当に面白いなって思うようになったんですよね。テレビの方が刺激的だし面白いかなって思った時期もあったわけですよ、若い時には。でも今、舞台って面白いなって改めて実感している最中なんですよね。やったらやった分だけ自分の中で感じるものがあるし、生のお客さんの目の前でやることによって自分の中でいつも緊張感があって、達成感もある。落ち込むこともあればハッピーになることもあるっていう、自分が生きているという現実をちゃんとつかみ取ることができるんです。
――僕、WAHAHA本舗さんの全体公演のオープニングで、皆さんが登場されてくるのを観ると、笑いながら手拍子してるんですけど、なんだか泣きそうになるんです。
久本:それ、みんな言う!(爆笑) まだ死なないって!(笑)
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――あぁ、またみんな元気に出てきてくれて、一生懸命踊ってると思うとジーンとしてしまって(笑)。
久本:みんな言うんだよね~(笑)。40周年公演だった前回は、喰始がちょっとエピソードを入れながらメンバー紹介したんです。そうしたらもうオープニングで客席の小林幸子さんがドド泣き(笑)。
――初めて拝見したのが、シアターアプルだったのでもう25年くらい前なのですが、その時の下ネタをまだ覚えているくらい衝撃でした。
久本:やめなさい!(笑) これから新派に出るんですから! 石井先生の前で下ネタはNO!です。石井先生の前で「よろチクビ~!」をやれってみんながけしかけてきたんですけど、絶対にできなかったですからね(笑)。
(取材・文:渡那拳 写真:米玉利朋子[G.P.FLAG inc])
「新派・松竹新喜劇 合同喜劇公演」『お種と仙太郎』『明日の幸福』は、東京・新橋演舞場にて5月9日~19日上演。
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