ミュージカル、ストレートプレイ問わずさまざまな舞台作品で主演を務め、近年は大河ドラマ『光る君へ』、日曜劇場『キャスター』など映像作品での活躍も目覚ましい俳優の木村達成。まもなく幕を開ける舞台『狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~』では、主演として新境地に挑む。稽古真っ只中の木村に話を聞くと、30代を迎え俳優としてさらなる進化を遂げる今の心境が伝わってくるインタビューとなった。
◆タイトルの「狂人」が心に刺さった
本作は、劇作家・清水邦夫が、1969年に安部公房の推薦で俳優座公演のために書き下ろした作品で、ある娼家に集まったさまざまな事情を抱えた男女が紡ぐ“家族ゲーム”を描く。第30回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した稲葉賀恵が演出を務め、女主人のヒモで、ここから逃げようとしているが彼女の優しさから逃れられない青年・出を木村が演じる。共演に岡本玲、酒井大成、伊勢志摩、堀部圭亮、橘花梨ら存在感あふれる顔ぶれがそろい、作品を彩る。
続きを読む
ピンクの照明が妖しげに光る娼家。大学教授と名乗る初老の男「善一郎」はここの女主人「はな」の客である。そして青年「出」は女主人のヒモで、ここから逃げようとしているが、彼女の優しさから逃れられない。この娼家には若い娼婦「愛子」もいて、彼女の客である若い男「敬二」もやって来る。
やがて彼ら5人はまるでここが一つの家族であるかのようなゲームを始める。初老の男が父親、女主人が母親、ヒモの青年が長男、若い娼婦が長女、その若い客の男が次男。ところがその家族ゲームとは…。
――本作のオファーをお聞きになった時の心境はいかがでしたか?
木村:清水邦夫さんの作品を深く知らず、この作品がどれだけの破壊力を持っているのか理解していなかったのですが、まずタイトルが刺さりました。本を読んでみると、どこをどう切り取って狂人と言っているのか気になるところがあったので、ぜひやってみたいなという気持ちになりました。
続きを読む
――タイトルのどんなところが刺さったのでしょうか?
木村:やっぱり「狂人なおもて」というところですね、「狂人でさえも往生をとげることができる」 (注:親鸞の言葉に「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」とある)。何をもって狂人と言われているんだろうと。この世界観は、蓋を開けて見ても何をどう切り取って狂人と言っているのか、またどんどん分からなくなってきているところもあります。
――演じられる出はどんなキャラクターと捉えていますか?
木村:端的に説明しづらいんですよね。1939年に生まれて、戦前と戦後に挟まれている男で、親が大学の教授。親は戦前の教育を続けたほうがいいと言っている中、世の中では道徳教育を推奨している。そこでもまた間に挟まれている。だからこそ学生運動に立ち上がったり…。
かわいそうな奴です。この時代に生まれてかわいそう、そんな感覚ですかね。
続きを読む
――出に共感する部分はありますか?
木村:うーん。僕は今の時代に生まれたことを間違えたとは思ってないし、生まれた環境でガタガタ言いたくないから、今出せる100%みたいな生き方をしているつもりなんですけど、でもこれって、環境が整っているから言えることなのかなと思うこともありますし…。
稽古をやっていく中で、「若者よ、立ち上がれ!」というようなメッセージ性を作品の裏テーマとして感じてしまっている分、刺さったというんですか。出も30歳の設定なので、すごく刺さる部分があったのかなって稽古を通して感じています。
――30代になると、今までとは違う、今まで通りではいられないという考えになることも多いですもんね。
木村:もう子どもじゃないとかね。自立していかなきゃいけないっていう芽生えはどこかである中、この娼家の閉鎖的な空間が、閉鎖的な日本の象徴として作っているような感覚があるので。ここから抜け出したい、新たな変化を求めて外に出ていこうと奮い立つ、出の脱出ゲームみたいな感じでやっています。
続きを読む
――上演決定のリリースで「今回は自分が何度ぶっ壊れるか、楽しみです(笑)」とコメントされていました。
木村:ぶっ壊れてないです、まだ(笑)。“ぶっ壊れる”っていう表現に“ガムシャラになる”っていうことも含めたら、もちろんガムシャラにはやっていますけど、ただ単に出たとこ勝負で頑張っているわけではなく、本当に脳みそをフル回転で使って、舞台上を広くそして人との関係を強く持とうと考えた時の力の使い方みたいなものが、出っぽさにつながって来ている分ぶっ壊れはしてないというか。そこらへんは上手いこと行ってるなと感じています。
◆少人数のカンパニーで作り上げる達成感が好き
――お稽古が進まれる中で、作品の印象は変わりましたか?
木村:だいぶ変わりましたね。やっぱり役者さんがその役に命を吹きこんでくださってる分、分かりづらい表現もすごく鮮明になってきている感じはします。
続きを読む
――演出の稲葉さんとは初顔合わせとなります。
木村:すごく寄り添ってくださってますし、みんなが理解してやっと一歩進めるという素晴らしい稽古場の環境づくりをしていただいて助かっています。
――今回は6人という少人数のカンパニーですが、稽古場の雰囲気はいかがですか?
木村:和気あいあいに何かを作る作品ではないので、みなさんと話し合いながら、稲葉さんを通して新しい発見を常に見つけながら頑張っている感じですね。僕は少ない人数で成立させる舞台が好きなんだなと思っています。舞台を成立させるために少ない人数で立ち上がっているほうが、達成感や舞台をやったっていう感覚が芽生えることが多いんですよね。
◆ストレートプレイ初挑戦から5年で得た気づき
――『光る君へ』『キャスター』と映像作品への挑戦も続いています。映像と舞台の違いはどんなところに感じていますか?
続きを読む
木村:映像は瞬発力がかなり必要なんですね。スタートがかかってからカットまでの何秒間に、一瞬でも奇跡を生んだり、「こいつ、すげえな!」って何か思わせなくてはいけない。目がバッキバキになるような(笑)、そこに懸ける何か一瞬の思いみたいなものを届けなければいけないということを培ったなと思います。舞台はどのシーンで何が起ころうとも、この公演で一回でも奇跡が起きればいいなと思っているので、そこは大きく違いますね。
あと映像はカットがかかってからの余白がない。舞台は自分で間を作っていかなきゃいけない。そこに何かがあるから、舞台はやめられません。
そもそも映像と舞台で分けたくないんですよね。映像は映像、舞台は舞台ではなく、お芝居というカテゴリーの中の1つ。ミュージカルもストレートプレイも関係ない。僕はそこに重きを置いてやっています。
続きを読む
――ストレートプレイに初挑戦されたのが5年前。ご自身の中で、この5年で変わられた部分はありますか?
木村:最初は無音の中で芝居することの恐怖がすごかったです。あと映像と違って、舞台は、たとえば水も実物としてそこにあるのではなく、そこにあるかのように作り上げないといけない。最初のころは、創作していかなきゃいけないという難しさがすごくあったかなと思います。でも、マジシャンじゃないですけど、こうやってやればここに何かあるように見えるよねって創作することが、これもお芝居なんだなと考えた時に、僕は素晴らしいコンテンツでお仕事をさせていただいているんだなっていう発見にもつながりました。
逆に映像では、水は実物があるから作り出すという作業はしないで済む。じゃあ飲み方を変えたらどういう風にお客さんに見えるのかなと、自分でキャラを作っていく方向に変えてお芝居してみたりしました。正直自分のセリフで自分のキャラクターを構築することがどれだけ難しいのかというのも学んでいますし、誰かのセリフでこうやって言われているから彼はこういう人間なんだと思える。でも水の飲み方や何かの仕方で自分のキャラクターを作るというのは、自分でできる作業のひとつなんだなとどこかで思い始めたんですよね。
続きを読む
――そう思われたきっかけはどんなことだったんですか?
木村:おそらく主演が楽しいと思い始めてからじゃないですかね。今でもプレッシャーは大きいですし、自分なんかにできるのかという不安は常にありますが、どこか責任を感じたり、「頼むぞ」と襷をかけられた時に奮い立つ自分がいるというか。逆境が好きなのかもしれない(笑)。男の子ってヒーロー体質じゃないですか。それが抜けてないだけなのかもしれないですけど、これはずっと抜けないでいたいなと思っています。
――今年32歳になられます。30代の木村さんはどうなりたいと思い描かれていますか?
木村:特に思い描いているものはないんですけど、必要とされたいっていうのはすごくありますね。「あいつがいるからなんとか保てた」とか、「あいつの代わりはいない」という役者になりたいなとは常々思っていて。「これは彼に頼まなきゃいけない仕事なんだ」と思われるような役者になりたいです。
続きを読む
――最後に、『狂人なおもて往生をとぐ』、楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
木村:かしこまったことを言うつもりもないんですけど、……おもろいよ(笑)。
――自信あり!と。
木村:自信ではないですけど、初めて「舞台、観に来ますか?」って周囲に連絡しました。自分から友達を誘うことなんてまずなくて、いつも「達成、観に行っていい?」「ああ、別にいいよ」という感じなのが、初めて「どうしますか?」と。
稽古をしている中で、お芝居をしているんですけどお芝居じゃなくなる瞬間がたまに見え隠れすることがあるんです。「あ、呼べるかもしれない」みたいな感覚になったんですよね。お芝居を超えたものが見える瞬間を作り出せたらいいなと思っています。
(取材・文:佐藤鷹飛 写真:高野広美)
舞台『狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~』は、東京・IMM THEATERにて10月11日~18日上演。
記事一覧に戻る