King & Princeとしてだけでなく、ナイーブさと力強さの両面を具現化する稀有な俳優としても存在感を発揮している高橋海人(「高」は「はしごだか」が正式表記)。映画『おーい、応為』では、自身にとって初めての時代劇に挑戦。葛飾北斎と同じ時代に生きた実在の絵師・善次郎(渓斎英泉)役に抜てきされ、人懐っこい笑顔の裏側に孤独を秘めた男として、観る者に忘れ難い印象を刻む。アートへの関心が強いことでも知られる高橋は、絵師を演じることでたくさんの刺激や発見があったという。高橋が本作で果たした経験や、“自分流”を追い求める表現者としての喜びを語った。
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■初の時代劇で、俳優業の醍醐味(だいごみ)を実感!
江戸時代を代表する浮世絵師・葛飾北斎の弟子であり娘として、数十年を共にした葛飾応為の人生を描く本作。豪胆で自由な性格の応為(長澤まさみ)が限りある命を燃やしながら、自らの意志で北斎(永瀬正敏)と共に生きていく姿を浮き彫りにする。
着物に身を包み、筆を持つ男として、初めて時代劇の世界へと飛び込んだ高橋。時代劇には、もともと心惹(ひ)かれていたと話す。
「小さな頃から、母親のそばで時代劇を観ていた」と振り返った高橋は、「お芝居をやらせていただくようになってからは特に、『時代劇って、どういう感じで作っていくんだろう』という興味があって。きっと、作っていく過程にも独特なものがあるんだろうなと気になっていました」と吐露。「自分も絵を描くので、北斎の存在はもちろん知っていましたし、絵も目にしていました。北斎といえば、日本アートの主役みたいな人ですよね。そんな人に迫る作品に出てみたい! と思って。本作のお話をいただいて、すごくうれしかったです」と前のめりになって参加した。
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北斎と応為の親子が住むボロボロの長屋をはじめ、人々が行き交う江戸の風景など、観客もその時代へと誘われるような世界観が作り込まれた。京都を中心に始まった撮影について、高橋は「当時の世界観が作り込まれているからこそ、セットに入った瞬間、一気に目の前のフィルターやムードが変わったような感じがあって。皆さんと話し合いながら、髪型や衣装についても決めていったりしていると、どんどん現代ではない世界に入り込んでいくようでした」と回顧。「いつも自分が過ごしているものとまったく違う生活を味わえるのは、俳優業の醍醐味」だと実感を込める。
■絵師役が、自分の描く絵について見つめる機会にも
江戸時代へと没入できる世界観が用意されながらも、大森立嗣監督からは「時代劇として考えなくていいよ」という声がけがあったのだとか。
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高橋は「最初は緊張していたんですが、そう言っていただけたことでフラットな気持ちで撮影に臨むことができました」と感謝しきりで、「大森監督は、『とにかくビビらず、のびのびとふざけちゃっていい。アドリブも大歓迎』と言ってくださって。超刺激的で、楽しく撮影することができた。それは自分にとって、財産です」とにっこり。「応為や北斎、善次郎たちの人間関係や生活模様が見えるところが、この映画のものすごくステキなところだなと思っていて。まるで隣に住んでいる人たちの姿を覗き見しているような感覚で、彼らを見つめられるのがすごく面白い」と語るように、役者陣が生き生きと登場人物を演じることで、その時代の生活の匂いまで伝わってくるような映画になっている。
高橋の画力が高いことを知った製作陣が、急遽、善次郎の執筆シーンを追加。役作りとして高橋は、クランクイン前から浮世絵の特訓にも励んだ。
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「英泉は春画を得意とした絵師ということで、練習も一発目から女性の裸体を描いて」と照れ笑いをのぞかせつつ、「毛筆で何かを描くというのは、習字以来のことです。筆ではカーブを描く際にも、途中で筆圧が変わったりする。だからこそ、よりその時々の魂や感情が乗るものなんだなと思いました」としみじみ。英泉の描いた絵から、役作りのインスピレーションを受けることもあったと続ける。
「北斎の描く波は、ものすごいシャッタースピードでとらえられているとも言われていますよね。自分で見た景色を覚えておきながら、そこにファンタジーを織り込みながら描いたりもする。でも英泉は、美人画や春画など、ファンタジーというよりは、リアルなものを美しく描いていた人なのかなと思います」と思いを巡らせ、「英泉は妹を養いながら絵師をやっていたので、彼にとって絵はきっと、生きていくため、生活していくためのもの。だからこそ、現実主義な絵を描いていたのかもしれないと感じました。自分で描いていても、その人の人となりや生き様と、描く絵は密接になるものなんだなと感じることがあって。僕の描く絵がどうしてもファンタジーでポップなものになるのは、自分がそういう脳みそだからなんだろうなと思います」と打ち明けていた。
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■「自分流の技術を磨いて、育てていきたい」
北斎の門弟であり、応為と友情を育んでいく善次郎。2人にいじられたりしながら、柔らかな笑顔を見せる善次郎がなんともチャーミングで、観客にも彼らの過ごす時間が心地よいものとして届けられる。応為役の長澤まさみ、北斎役の永瀬正敏と一緒の撮影について、高橋は「ものすごく楽しかったです!」と声を弾ませる。
「長澤さんは、いつも『King & Prince、どう?』とか『元気?』と声をかけてくださって。心配してくれたり、見守ってくれている感じがして、まるでお姉さんのよう」と目尻を下げ、「長澤さんの演じる応為には、女性らしい面を持ちつつ、周囲を引っ張っていくような人間力を感じます。それは長澤さんご自身も、同じです。長澤さん、そして永瀬さんも、生き様の中にチャーミングさや色気が見えるところなど、演じた役と重なるところがたくさんあって。撮影の合間も、役の関係性のまま、3人でずっと一緒にいられたような気がしています。みんなでワンちゃんを愛でていたりしました」と劇中に登場する犬のサクラも、現場の愛されキャラだったという。
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「長澤さんと永瀬さんは、やっぱりすごい」と舌を巻いた高橋。歌やダンス、芝居、絵など表現者として走り続けている彼だが、先輩の役者陣の芝居を目の当たりにすることで、あらゆる刺激を受けている。
「最近、お芝居の技術的な面も重要だなとすごく感じていて。『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系)でご一緒させていただいた中村倫也さんのお芝居からも、いろいろなことを学ばせていただきました。倫也さんのお芝居を間近で見ていると、お芝居に熱量があると、観ている方々にも感情がクリアに伝わりますが、そこに技術が加わるとさらにお芝居が強いものになるんだなと感じて。僕はこれまであまりテクニックのようなものは気にせずにやってきたんですが、そこを追求していく楽しさもあるんだなと思いました。倫也さんには、新しい扉を開いてもらった」と告白。「その中でも、自分なりの流派、自分流の技術を磨いて、育てていけたらいいなと思っています。そう思うと、ワクワク感が増します」とゴールなき表現者としての道のりは、高揚感に満ちたものである様子。
北斎と応為は、生涯をかけて浮世絵に情熱を捧げた。高橋は「北斎からは呼吸をするかのように、絵を描きたいという気持ちが湧いてくる。森羅万象を描くまで死ねないという精神が見えるし、応為からは常に何かに燃えていたいという覚悟の炎を感じます。彼らのそういった姿に触れると、影響を受けるものもあります。そして英泉には、苦労してきた過去から出る人間としての奥深さもあって。三者三様の生き様がどのように受け取っていただけるのか、とても楽しみです」と期待していた。(取材・文:成田おり枝 写真:上野留加)
映画『おーい、応為』は、10月17日より全国公開。
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