『聲の形』を生み出した漫画家・大今良時による同名漫画を原作としたテレビアニメ『不滅のあなたへ Season3』が、いよいよ10月4日よりNHK総合にて放送される。物語の舞台が、ついに「現世」へと突入。かつてないほどの平和な世界。新しい友人、新しい家。全てが満ち足りた世界で幸せを謳歌できると思っていたフシに、またしても不穏な影が迫る。再び大きな試練に立ち向かうフシ役・川島零士、観察者役・津田健次郎にインタビューし、Season1の頃と比べて演技やアフレコ現場の「変化」について聞いた。
■ついに舞台は「現世」へ。急激に変化する物語の中で、演技に変化は?
――2022年に放送されたSeason2では、宿敵「ノッカー」の攻撃によって再び混乱に陥った世界で、フシが仲間と共に未来を守るために戦う姿が描かれました。お二人が特に印象に残ったシーンは?
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川島:Season2はもう3年前ですか! かなり記憶を呼び起こすことになりますが(笑)、でも印象的なシーンやセリフばかりでした。フシが死んだ仲間を魂として見つけ出す能力を得て、グーグーやトナリたちと再会を果たすシーンは本当に感動しました。
そこに行きつくまでのシーンで、マーチが言った「生きることは、奪われちゃダメなのよ。何が何でもダメなの」というセリフ。それに対して、観察者がまるで人間になったような反応を見せていて。あのシーンが『不滅のあなたへ』の“根幹”だと思っていて、僕の中に色濃く残っていますね。
津田:最後にフシが眠りにつくところも、絵的な意味も含めてインパクトがすごかったですよね。これまでの出会いや別れ、戦いなどの展開に一つ区切りがついたような。あのシーンからは、その“重さ”みたいなものをジワっと感じさせられました。
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――そんな展開を経て、ついに物語は「現世編」へと突入します。物語自体の大きな動きに合わせて演技も変化しているかと思うのですが、フシと観察者を演じる上で意識していることは?
川島:Season1からSeason2にかけては、主人公が自我を確立するエピソードが描かれていました。意識さえ持たない球から、石、コケ、ジョアン、少年へと変化し、そしてフシとなるのですが、やっと人間になれたけれど、体の動かし方すらわからない状態で。姿の変化に加え、意識の変化も急激で「逆算した役作り」をしていた記憶があります。
NHKの番組で「エリクソンの発達段階」を扱っているのを見たのですが、人間は何かの欲求を満たすと、また別の欲求が生まれるんですって。さらに、幼少期や青年期など時期によって求めるものは違っているそうで、Season1の頃の変化していく主人公の様子がその“逆”に当てはまると思い、そういった役作りをしていました。
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――逆算してのお芝居というのは、かなり難しそうなのですが……。
川島:そうですね。ただ、そのSeason1を録った頃は4年前くらいで、あまり出演作も多くなかった時期で……(笑)。ひとつの作品に対してすごく時間をかけられたんです。そこでしっかりフシのベースが作られたからこそ、今もその意識を取り入れながら演じることができていますね。
――「現世編」のフシを演じるにあたり、演技に変化は?
川島:心の成長はありますが、肉体的な成長はそこまで大きくないので、演技に関しては「前世編」から変化させていません。
「現世編」は、自己を獲得したフシが、人に対して存在意義を与えていくことを軸とした物語。「前世編」が物理的な意味で人を守ることをしていた分、「現世編」では心を守らなければいけないので、「心を守るとは?」という深い意味を考えながら手探りで演じている状態ですね。
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――津田さんはいかがでしょうか?
津田:物語はさまざまな変遷を遂げますが、観察者に変化はないですからね。基本的には演技も「変わらない」ことを意識しています。
川島:以前、観察者を演じるうえで「重力を意識している」と言っていましたよね。
――重力というのは?
津田:俯瞰した立ち位置にあるキャラクターで、何の感情もないような淡々とした語り口を意識していますが、それが軽すぎてもいけないということです。物語の空気感を作るナレーションの役割を担っているので、それも含めて重力の塩梅は何よりも注意しています。
――最初の頃と比べると、フシに助言めいた言葉を与えるようになったと感じます。それでも演技に変化は加えずに?
津田:そうですね。助言は送っていますが、それはフシに寄り添っているわけではないと感じるので。そこに「助けたい」などの感情もないと思うので、あくまで淡々と、感情を入れずに演じるのは最初の頃から変わりません。
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■最初は二人だった『不滅のあなたへ』のアフレコ現場 「現世編」では川島零士が先輩に
――「現世編」で新たなキャラクターが加わりましたが、気になるキャラクターは?
川島:おそらく視聴者の皆さんが最初に気になるであろうキャラは、アオキユーキだと思います。純粋な目線で物事を見ていて、あっけらかんとしたムードメーカーなのですが、ふとした瞬間に本質を突いた気づきのある一言を言うんですよ。
そんな彼が、現世に来たフシにどんな影響を与えるのか。僕自身も気になっているし、皆さんに注目してほしいです。
津田:僕はその視聴者目線で、ユーキのことも、他のキャラクターについても気になっています。実は、この『不滅のあなたへ』に関しては原作を読まないようにしていて。毎回台本をいただいて、この先のストーリーを知るという状態なんですよね。
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観察者というキャラクターゆえに、キャストが揃うアフレコにも参加できていなくて……だから今日、川島くんにアフレコ現場の雰囲気を聞いてみたいです(笑)。
――「現世編」になってアフレコ現場の雰囲気も変わったと思うのですが、いかがでしょうか?
川島:フシが学校に通うということで、学生のキャラクターを演じるため、若いキャストさんがすごく増えました。Season1の頃は僕が一番の新人でしたが、今ではもう先輩ですよ!
「初めてオーディションに受かりました」という子もいて、初めての現場で頑張っている姿を見て「僕もこんな時期があったなぁ~」としみじみした気持ちになっています(笑)。
津田:うわ~そうか。川島くんがもう先輩になったのか(笑)。Season1の最初の頃はほぼ二人での収録で、死んだり、色々なものへ変化したりと大変な思いをしながらお芝居しているのをずっと横で見て来たからこそ、感慨深くなっちゃいますね。
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川島:あの頃の津田さんを思い浮かべながら、僕も後輩たちが頑張っている姿を見て「怖くないよ!」「いい演技見せちゃいなよ!」と陰ながらエールを送っています(笑)。
――Season1の頃は津田さんの演技を見て得たものもあったのではないでしょうか。
川島:もちろん勉強させてもらいましたが、いかんせん声質が……。
津田:タイプが全然違うからねぇ(笑)。
川島:ですが僕は形から入るタイプなので、津田さんがナレーションの際に手を使って調子を取っているのを見て、それを真似させてもらっています。
津田:僕はアフレコで手が動いちゃうタイプなんですよ。指揮ではないですが、それによって力加減が調整できる気がして。リズムも取りやすいので、今はもうクセになってしまっていますね。
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――一番近くで見て来た津田さんから見た、川島さんの演技の変化は?
津田:最初からとても安定していましたよ。フレッシュさもあり、何の心配もすることなく立派に座長を務めてくださいました。
川島:ありがとうございます……!
――今回「現世編」を演じるにあたり、改めて感じた『不滅のあなたへ』の魅力を教えてください。
川島:情報量が増えている世の中なので、見落としてしまうことが多いと思うのですが、それに気づかせてくれる作品だと感じました。
作品を通して大今先生が提示しているテーマは、立ち止まってしっかり考え、向き合わなければいけないと思わされます。自分としっかり対話できる時間をくれる作品に出会えたことに、改めてうれしくなりました。
――この作品に関わることで、自身の考えに変化はありましたか?
川島:はい。「現世編」のテーマにも関わる、ノッカーの「痛みの肩代わり」について。僕は言葉だけの印象で「悪いことではないんじゃないか」と思っていました。しかし、その痛みを感じるからこそ、幸せも感じられるんです。
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痛みと喜びは表裏一体で、肩代わりされてしまうと、「嬉」の感情も薄れていってしまう。それに気づいたことによって、日常生活で感じる「痛い」「苦しい」「辛い」を前向きに受け取れるようになりました。ちょっと苦しいことがあっても、「この先に楽しいことが待っている」と思えます。
津田:命に対して真正面から向き合う作品って、手塚治虫先生の『火の鳥』や宮崎駿先生の『風の谷のナウシカ』など大ベテランが着手するものという印象がありました。それをあの若さでよく取り組んだと、大今先生は本当にすごいと思います。そして、それをよくアニメーションにしようと思ったなと。
関わるスタッフさんは、きっとすごく大変な思いをしながら作っていると思います。しかし、その甲斐あって、他のアニメ作品とは違う立ち位置を築けているのではないでしょうか。この作品に参加できることは本当にありがたいと、改めて感じることができました。
(取材・文:米田果織 写真:吉野庫之介)
テレビアニメ『不滅のあなたへ Season3』は、10月4日よりNHK総合にて毎週土曜23時45分放送。
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