現在放送中の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合ほか)で、吉原の新興勢力・大文字屋の女郎で、吉原随一の花魁となった誰袖(たがそで)を演じている福原遥。劇中では、横浜流星演じる蔦屋重三郎に恋心を抱き「身請けして」とグイグイ迫る小悪魔キャラを見せたかと思えば、松前藩家老である松前廣年(ひょうろく)を陥れようと画策するしたたかで妖艶な悪女ぶりを見せるなど、幅広い表現で作品を彩っている。
続きを読む
■“まいんちゃん”からの脱却――狂気とサイコパスへの挑戦
福原と言えば、10歳のときに出演した子ども向け料理番組『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』(NHK教育テレビ/NHK Eテレ)で、主人公の少女柊まいんを演じて注目を浴びた。愛らしいルックスと明るい笑顔で「まいんちゃん」と人気を博したイメージは大人になってからも健在で、福原と言えば爽やかな清純派という印象が強かった。
これまでの経歴を見ていても、10代で主演を務めたドラマ『グッドモーニング・コール』(フジテレビ系)や『声ガール!』(ABCテレビ)、そして2017年に公開された映画『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』などは、福原の“爽やか”で“ひたむき”なパブリックイメージがぴったりの作品に出演することが多かった。
続きを読む
そんな彼女が20歳を過ぎたころから、自身のイメージを活かした作品に出演しつつも、徐々に役柄の幅を広げていく。特に2019年は、ドラマ5本、映画3本、劇場アニメ2本が公開・放送され、福原は非常に多岐に渡るキャラクターに挑んだ。
「鬼気迫る泣きの演技」で大きな話題になった『3年A組‐今から皆さんは、人質です‐』(日本テレビ系)。本作で福原は、決めつけによって大失態を犯してしまうところだった生徒・水越涼音を演じ、教師である柊一颯(菅田将暉)に詰められ恐怖におののきながら号泣する迫真の演技を見せた。SNS上でも、これまであまり観たことがない福原の芝居に称賛が寄せられた。
続きを読む
また浜辺美波主演で人気を博した『賭ケグルイ』(MBS)のシーズン2で演じた歩火樹絵里では、豹変する狂気の表情を見せ、こちらも「これまでのまいんちゃんとは違う」とSNS上では話題になった。さらに同年に公開された映画『羊とオオカミの恋と殺人』では、次々に人を殺めてしまう殺人鬼の宮市莉央を演じ、強烈なインパクトを残した。
宮市は、罪悪感や葛藤を持って人を殺めるタイプの殺人鬼ではなく、ただただ“殺す”ことに快楽を覚える冷酷なシリアルキラーだ。しかも普段は、誰もが羨むようなかわいらしい女の子。そんな子が、うつろな目で感情が欠如したサイコパスになる切り替えは圧巻だった。
続きを読む
元々「ずっと殺人鬼みたいな役をやってみたかった」とインタビューで語っていた福原。本作の話があったときは「ついに来たか!」と喜んでいたが「壁を作らず、いろいろな役に挑戦したい」という意思を示していた。
■『べらぼう』で咲いた“悪の花”—小悪魔と悪女、愛らしさの多面性
明るく爽やかなパブリックイメージに加え、狂気を含んだ女性、さらにはサイコパス、そして福原の代表作の一つと言ってもいい『ゆるキャン△』シリーズ(テレビ東京・テレビ大阪・テレビ愛知)で見せる、クールでやや温度が低めな志摩リンと、多彩な役を演じてきた。
続きを読む
こうしたなか、4度目の挑戦でヒロインの座をつかんだ2022年度後期の連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)では、空に魅了され、パイロットを目指すひたむきなヒロイン・岩倉舞を好演。福原自身の原点回帰となるような役で、朝のお茶の間に爽やかな風を吹かせると同時期に、同じくNHKで放送された『正直不動産』シリーズでも、真面目でひたむきな月下咲良を好演した。
振り返っても、非常にバランスのよいキャリア構築を見せている福原。そして今年、『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』で自身初となる大河ドラマ出演を果たした。演じたのは、吉原を代表する花魁となる誰袖。禿(かむろ)時代は、稲垣来泉が演じていたが、常に“蔦重ラブ”で「早く身請けをしてほしい」と上目遣いで猛アピールするなど、小悪魔ぶりを発揮する。
続きを読む
特に、先代・大文字屋(伊藤淳史)の体調が悪いなか「500両で誰袖を蔦重が身請けすることを許す」という念書を書かせる誰袖のシーンは、小悪魔を通り越して悪魔の沙汰だったが、こうしたコミカルでキュートさを持つ悪魔的なキャラを演じることは珍しく、福原の引き出しがまた一つ増えた印象だ。
一方で、宮沢氷魚演じる田沼意知に恋心を抱くなか、振り向かせるために、田沼意次(渡辺謙)が画策する蝦夷地を直轄にするための策略を持ちかけ、松前藩家老の松前廣年に“抜け荷”と呼ばれる密貿易をけしかけるというしたたかさも見せた。この時、ふと見せる“悪い目”、さらには駆け引きのために“色仕掛け”をする妖艶さも、福原の新境地と言えるだろう。誰袖は、今後数奇な運命をたどるが、物語中盤に大きなインパクトを与える役割を果たした。
続きを読む
福原は、今夏放送のドラマ『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ系)で、月9初主演を果たすのをはじめ、2026年には『正直不動産』の劇場版にも出演することが決まっている。今年で芸歴20年を数えるが、まだ26歳。“明るく元気で爽やか”な陽のキャラクターから、陰のある役、さらには妖艶な役も加わり、20代後半さらにどんな顔を見せてくれるのか、非常に楽しみな女優だ。(文・磯部正和)
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』はNHK総合にて毎週日曜20時放送。NHK BSにて18時、BSプレミアム4Kにて12時15分放送。
記事一覧に戻る