WEST.の桐山照史がロミオ、柄本時生がジュリエットを演じ大好評を博した舞台が、『泣くロミオと怒るジュリエット2025』として再演される。5年ぶりの再演に臨む2人に話を聞くと、同学年ということもあり気心の知れた雰囲気の笑いあふれるインタビューとなった。
◆5年ぶりの再演オファーに即相談「どうする?」
『焼肉ドラゴン』や韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の日本版舞台化での台本・演出、映画『愛を乞うひと』の脚本などで高い評価を得る劇作家・演出家の鄭義信が書き下ろした本作。シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を、物語の舞台を鄭自身のルーツである関西の戦後の港町に、セリフを全編関西弁に大胆に翻案。さらにキャストは全員男性(オールメール)と異彩を放つ設定でありながら、二人の若者の恋物語と時代を生きるならず者たちの抗争劇に、人種間や国と国との差別・格差などの普遍的なテーマを巧みに織り込み、笑いと涙で観客の心を鷲づかみにした。
桐山と柄本のほか、八嶋智人、高橋努・朴勝哲が初演に続いて参戦するほか、泉澤祐希、浅香航大、渡辺いっけいら実力派キャストが新たに加わり、2025年版としてさらに進化した鄭版『ロミジュリ』の世界を届ける。
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――5年ぶりの再演が決まった時のお気持ちを教えてください。
桐山:再演させていただけるということが人生で初めてだったので、すごくうれしかったです。スタッフさんもそうですけど、お客様の声がないとできないことなので、すごくありがたいなと思いました。
またやってみたいと思っていた作品なのでうれしかったのですが、すぐに時生に連絡しました。時生がジュリエットじゃないとできないとも思っていたので「どうする?」と(笑)。初演は30歳の僕たちでも、精神的にも体力的にも大変な舞台だったので、5年経った俺たちがそこまで持っていけるのか、自分たちで決めたハードルを超せるのかという不安もありました。
柄本:まったく同じ意見です。あの熱量と精神を使い切る感じをもう一度となったときに、一瞬悩みました。桐くんからの連絡にも「怖いです。ちょっとだけ悩んでるんだ」と返しました。
再演というのは自分の中でも挑戦。僕にとって再演は2回目の経験になるのですが、前回は初演を超えようとさらに精神をすり減らした思い出があります。でも今回は、俳優として別のやり方を見つけられるんじゃないかと思う部分もあるので、すごく楽しみにしております。
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――初演時にはそれぞれ役作りでどんなことを心がけられましたか?
桐山:もともと関西弁を話しているので、そのパブリックイメージで役をオファーしてくださることもあるのですが、そうするとどうしても桐山照史に寄ってしまって、どう自分が頑張って役柄を作りこんだとしても、「役柄そんなに必要なかったな」と言われることがこれまであったんです。ロミオを演じる際もその怖さはあったのですが、鄭さんがロミオに吃音という設定を入れてくださったことで、桐山とはまったく違うロミオを作ることができました。
吃音に関してはたくさん勉強しました。舞台が終わった後も、吃音がなかなか抜けなかった思い出があります。
柄本:僕の場合、ジュリエットの役作りは鄭さんのおかげで出来上がったというか。冒頭に、僕のことをお客さんが認めてくれるセリフを作ってくださって(笑)。あとは、セリフがすでに女性のセリフとして書かれているのでその気になるというか、その流れに沿った自分を演じていくという感じでした。
ビジュアル面ではメイクさんなどプロに任せる以外なくて、僕自身にできることと言えば、毛を抜くことくらいなんです。
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桐山:大事なことやんな。
柄本:ブラジリアンワックスで…
桐山:痛い痛い痛い…。大変やったな。
――公演が進むにつれて、柄本さんがかわいくなっていった姿が印象的でした。
柄本:ありがとうございます! どんどん化粧が乗っていきました。
桐山:乗ってたよ~。時生と八嶋さんは初日と公演の後半で別人のようでした(笑)。
◆オールメールキャストの稽古場は「男子校のよう」
――お互いの印象はいかがでしたか?
桐山:ようやく同い年の役者さんと一緒にお芝居できるということでうれしかった記憶があります。作品が終わってからも頻繁に連絡を取るわけではなかったんですけど、久々に会ってもこの感じでお話できるというのはすごくありがたいです。
時生は役者さんというか、ひとりの人間として、楽に接してくれる人ですね。5年も時間が空くとよそよそしくなったりするものですが、時が止まってたのかなっていうくらい、そんなこともなくて。
ただ! がさつなんですわ、この男。もうびっくりするくらい! 俺の人生にはなかった別枠を作ってくれましたね。時生はサンダル族で靴下を履かないんです。サンダルでうわーっと稽古場に来て、素足で稽古しだす。僕らはサンダルで来ても、稽古靴を履いて、お願いしますと稽古に入るんですけど、時生は素足でぺちゃぺちゃ稽古場に来て、「私、ジュリエット~」って(笑)。
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柄本:(両手で顔を覆い恥ずかしがる)
桐山:すげえな~って、心臓がザワザワしました。「同級生、肝座りすぎてんな。俺、ぬるま湯に浸かってたわ~。あれくらいかまさな、あかんな」って思いました(笑)。
柄本:この5年間でわかったことがあるんです。うちの親父、劇団をやっていたから、僕は学校から本多劇場に帰るんですね。そこで劇団員のお兄ちゃんたちに鬼ごっことかで遊んでもらっていた時に、裸足で劇場中を走り回っていたんです。その癖がまだ取れていないんだなと(笑)。裸足が一番落ち着くので、靴が履けなかったんだと思う。
桐山:鄭さんが最初に時生に出した演出というかコメントは、「時生、お願い。靴履いて」だったもん(笑)。ナチュラルな子なんだな~って思いました。
――柄本さんは、桐山さんにはどんな印象をお持ちでしたか?
柄本:思ってたより優しかったです。とにかく優しい人でした。
桐山:どういうイメージ持ってたん?(笑)
柄本:豪快なのかなと思ってたんだけど、こんなに人の気持ちを汲みながらしゃべってくれる人なんだと。取材で向かい合ってしゃべってるところを撮らせてくださいってなった時に、「どっちの目から見る?」って言われて。「右」って言ったら、見ていいよって教えてくれる優しさ。こんなに楽にしてくれる人ってなかなかいない!女子ってこんな気持ちなんだ!となりました(笑)。
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桐山:(笑)。
――この5年で変わったなというところはありますか?
桐山:変わったところ…。ないよね?
柄本:……肌とか?
桐山:ほんま? 自分で感じる?
柄本:(ビジュアル撮影で)ジュリエットの化粧をして鏡を見た時に、「あ、垂れた!」って(笑)。
桐山:もうジュリエットに入ってるやん!(笑)
柄本:八嶋さんも「ああ、いい感じ、いい感じ」と言ってたから、たぶんいい感じで“オバみ”が増してるんだと思う(笑)。
――前回の公演での思い出を教えてください。
桐山:異性がいないから、くだらんことをとにかくしゃべってました。なにひとつ憶えてないくらいのくだらないことを(笑)。稽古期間はまだコロナ前でしたし、終わってからみんなで飲みに行ったり。
柄本:男子校だったよね。
桐山:ほかの現場ではしたことないんですけど、稽古場にお酒を差し入れして、稽古終わったらみんなで飲んで。
柄本:みんなでお好み焼きを食べにも行ったよね。
桐山:行った!行った! 八嶋さんが都合で遅れてくると言ってたんですけど、僕らもう長い時間飲んで、来ないから帰ろうとしたら、店の前で八嶋さんが待ってた(笑)。「帰るとかないよな?もう一杯付き合えよ」と。そういうのも男子校らしくて楽しかったです。稽古が終わってからの記憶ばっかりですね。
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◆桐山照史が抱く新宿のイメージに柄本時生ツッコミ
――前回は新型コロナウイルスの影響により、全公演完走が叶いませんでした。今回、満を持して大阪公演も予定されています。関西のお客様にお披露目するにあたり、お気持ちはいかがですか?
桐山:楽しみですね! 全員男子で男子校の感覚が好きというのもありますけど、この作品は思い入れが違うんですよね。自信を持ってお届けできる作品を、関西でお客様に観ていただけるというのは、堂々と胸を張って帰れる感じがします。
――東京ご出身の柄本さんは、関西で関西弁をお披露目するプレッシャーはいかがですか?
柄本:関西弁にはとても苦労した記憶があって、関西の方に観てもらうというのはどう受けとめられるのだろうと気になっています。でも八嶋さんが「君にはそれを超越する気持ち悪さがあるから大丈夫!」って言ってくださって(笑)。なので大丈夫だって信じています。
――前回から続投の“ジュリエットファミリー”、柄本さん、八嶋さん、高橋さんのチームワークは最高なんですね。
柄本:楽屋がうるさいと注意されました(笑)。
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桐山:「ギャハハハハ!あきと~!あきと~!これ見て~!!」って呼ぶな!(笑)
柄本:(笑)。
――今回東京は、新宿・歌舞伎町にあるTHEATER MILANO‐Zaでの上演となります。新宿に対する思い出は何かありますか?
桐山:……東京に出てきて15年くらいになるんですけど、怖くて行けない(笑)。ちょっと前に友達と夜に映画を観に行ったんですけど、やっぱり怖いってなったもん。特殊な街やんな?
柄本:桐くん、ごめん。その男らしい感じから、怖いって言葉は…(笑)。
桐山:新宿の人、みんな声でかいし!(笑) 僕自身あまり新宿に遊びに行こうとはならないんですけど、『ごくせん』をやらせてもらってた時は、メンバーで新宿にある沖縄料理屋さんに行ったりしていました。三浦春馬がめっちゃ沖縄料理にハマってたんですよね。ここが新宿か~って思いながら、ご飯食べて、ビリヤードしてみたいな学生ノリをしていました。今回は舞台に立つ怖さと新宿に足を踏み入れる怖さの両方を感じながら過ごしたいと思います(笑)。
柄本:みんなで新宿に飲みに行って、怖さを減らしていこう!(笑)
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僕は思い出がいっぱいあるというか、ゴールデン街とか保育園のころから連れて行ってもらってましたし…。
桐山:それはすげえぞ!
柄本:親父の話なんですけど、演劇を志そうとしたときに形から入ったらしくて。太宰治とか寺山修司とかの本を持って新宿の喫茶店で読む。それが当時の演劇を目指す青年たちの走りであり、おしゃれだったそうなんです。なので、僕は中学2年の時に初めて、別役実さんの本を持って新宿にあるピースという喫茶店でかましていました(笑)。
桐山:かっこよすぎるやろ~。俺もカフェかどっか行って本読んでから劇場に行きます(笑)。
――(笑)。チームワークもばっちりなお2人ですが、最後に本作を楽しみにされている皆さんに向けて、メッセージをお願いいたします。
桐山:どんな作品に出ているの?って聞かれたら、この作品を挙げるくらい、桐山照史の代表作にしたいと思っている大好きな作品です。好きな世界観とストーリーで、「お芝居ってこんなに楽しみながらやっていいんだ!」と教えてもらえた作品でもあります。今回、キャストの方々、スタッフさんと一緒に新たに2025年バージョンで届けられるのが本当にありがたいなって思っています。全力でお稽古してパワーアップした『ロミジュリ』を届けられるように頑張りますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけるとうれしいです。
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柄本:『泣くロミオと怒るジュリエット』、またやらせていただきます。またトンコツのように濃いめに、一生懸命力強く頑張らせていただきますので、ぜひ楽しみに観ていただけたらなと思います。よろしくお願いします。
(取材・文:佐藤鷹飛 写真:高野広美)
Bunkamura Production 2025『泣くロミオと怒るジュリエット2025』は、東京・THEATER MILANO‐Zaにて7月6~28日、大阪・森ノ宮ピロティホールにて8月2~11日上演。
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